アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
漁業とアザラシの関係
2021年09月27日みなさんこんにちは。
えりも自然保護官事務所の熊谷です。
前回の日記で、えりも町で秋サケ定置網漁が解禁になったとお知らせしました。
始まったばかりの水揚げ内容は、サケよりもブリが上回っていましたが、漁が始まり約1ヵ月。日を追うごとにサケが増えてきました。これは喜ばしいことですが、サケと同時に増えてくるのが「トッカリ喰い」。
アイヌ言葉でアザラシのことをトッカリと呼び、えりも地域に生息しているゼニガタアザラシによる漁業被害を「トッカリ喰い」と呼んでいます。
多くが漁業関係者であるえりも町民にとって、漁業被害は生活に直結する問題且つ近年の不漁にあっては気にせざるを得ない問題です。
▼数年前までのトッカリ喰い(ほとんどは頭部がない状態です)
▼近年のトッカリ喰い(胴部分が喰われボロボロ...サケもブリも被害を受けています)
被害の様子に変化が見られます。
サケの頭部がなくなる被害がほとんどだった数年前に比べ、ここ2年で頭部のみの被害は減り胴部分への被害が増えました。また、ブリへの被害が目立つようになったのもこの2年。
知能の高いアザラシがサケもブリも上手く捕まえられるようになったのか、海況が変化していることでアザラシの餌となる資源が減り定置網に執着しているのか...下記のお話からも、後者の理由が有力ではないかと考えています。
漁師のみなさんが言います。「すっかり海が変わってしまった」
これはサケが獲れなくなったことを総じて言っているものですが、その背景には
◆本来、秋定置網漁の前半(9月)に最盛期を迎える地域だけれど、9月後半になっても気温
水温共に高い状態で、サケが来遊する適温に定まらない
◆水温上昇に伴い、獲れる魚種が変化している。(昔は獲れなかったブリがここ3年でサケより目立つ漁獲量に。今年にいたっては暖かい海域にいるはずのカジキがかかることも...)
◆かつては海をみれば魚が跳ねていたけれど、そもそも魚を見かけない
記録的不漁!と言われた年から5年が経ちますが、今も不漁が続いています。
このような状況で、上記写真のように毎日ゼニガタアザラシが被害をもたらしているとなれば漁師の気持ちも昂りません。
えりも自然保護官事務所の業務としては、えりも地域に棲むゼニガタアザラシがもたらす漁業被害軽減を目指しています。漁業とアザラシがどんな状態であることが望ましいのか、取り巻く環境が変化する中で対応していくことには難しさもありますが、冷静に状況を把握することも必要で毎日の乗船調査で魚・海・アザラシの状況の把握、漁網の改良に取り組んでいます。
休んでいる野生のゼニガタアザラシをすぐ近くに見られるのは珍しく、少し観察していると、動きには個体差がありとても可愛らしいです。日本一の生息地・繁殖地という環境があることも、誇らしいことだと感じます。
引き続き、漁業にもアザラシにもよい状況とはどう在ることなのか、考えながら取り組みたいです。
漁業が盛んで野生動物の生息地でもある地域にはこのような課題があることを、まずはみなさんにも知っていただけたらと思います。