アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
はじまりの山 芽室岳
2021年11月24日今回は9月中旬の、芽室岳登山道調査の様子をお伝えいたします。
日高山脈の登山史の始まりは、大正12年の7月、北大山岳部の松川五郎氏らによる芽室岳登山に始まります。芽室の由来はメム(泉沼)・オロ(内より、または内に)ベツ(川)=という意味で、川の源の泉や池から流れてくる川と解されます。当時松川五郎氏らはこの芽室川より芽室岳に初登山しました。
また、芽室岳には一等三角点がありますが、一等三角点が選定されたのが明治33年7月6日で、埋石年月日:34年5月14日、観測年月日: 38年7月17日となっています。
人馬で平原を進み、山に入って、人力で重い器材を担ぎ上げて測量をしていたのでしょう。
開拓されていない原野にて行われた測量は大変な苦労であったと偲ばれますが、北海道の開拓に大いに役立ったことでしょう。
そんなはじまりの山、芽室岳ですが、平成28年の日高・十勝地方豪雨災害の影響で氾濫した芽室川により、林道と避難小屋・橋が損失した影響で、登山口までのアクセスが長く、利用者が減って登山道は笹藪に覆われていました。
しかし今年度、林道や登山口付近の駐車場も補修され、また10月に山岳会有志の方々で草刈りもしていただいたため、来年度の登山が楽しみです。
私が最初に芽室岳に登ったのは14年程前の話で、まだその頃は一人でどきどきしながら夏山ガイドを見ては日高山脈に通っていたのですが、当時の芽室岳避難小屋は鬱蒼とした林に囲まれており、川も森の中を流れていました。
しかし、出水の影響でこんなにも開けて平らになってしまった様子を見たときは大変驚き、自然の力の凄まじさを感じました。
今回は笹刈り前に登山道調査を行いましたので、登山道は全体的に藪に覆われていましたが、足下にはところどころナラタケ(ボリボリ)が生えており、秋の森を感じました。
▲ナラタケ ▲ハナビラタケ ▲サルオガセ(地衣類)
パンケヌーシ(西峰)分岐を過ぎると山頂はもう一息です、主稜線に出るとナナカマドやオガラバナなどが色づいて紅葉が始まっている様子が見られました。
足下にはウラシマツツジの紅葉、コケモモも実っていました。ハイマツの実ややベリー類を食べに来ているのでしょうか。熊糞も確認しました。
左:ウラシマツツジとコケモモの赤
中央:エゾシマリスによるハイマツの実の食痕
右:高山帯のエゾヒグマの糞
山頂は双耳峰となっていて、ケルンのピークを過ぎるとまもなく山頂、山頂には岩の山がありそこに腰掛けて十勝平野を見おろしました。今回はガスがかかっていてあまり展望がなかったのですが、晴れた芽室岳は日高山脈の展望がとても良い山です。
▲紅葉の始まった主稜線 ▲山頂は岩山
前回の芽室岳登山は今年の3月でしたが、山頂は360度展望よしで、カムイエクチカウシ山方面の中日高の山々から、日勝峠方面の北日高の山々まで日高山脈の稜線を見渡すことができました。
その時は日勝峠から芽室岳までテントを背負ってスキー縦走したのですが、南・中日高の急峻な稜線と比較すると、北日高は主稜線の幅が広くてわりと緩やかな場所が多く、歩きやすかったです。
残念ながら写真はないのですが、下山時に、イカルの群れがナナカマドの実をほおばっている様子を目撃しました。がっちりした体を持つイカルが木の実に群がる様子は、なんだか食いしん坊みたいでかわいかったですが、キーコーキーと高く澄んだ美しい鳴き声を持つ鳥です。
イカルの黄色いくちばしは、木の実を食べやすいように大きく太くなっており、堅い木の実や草の実を砕いてエサにしています。
また、イカルは小さな群れの中から気の合うパートナーを見つけるようですが、とても夫婦仲がよく、餌を探しに行くときは行動を共にするなどといったほほえましい一面をもっています。
芽室岳は展望も良く、中級レベルの方であれば日高山脈の入門の山として最適です。
来年はぜひ芽室岳へ日高の稜線を見に行ってみませんか。