アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
マリモ、救出作戦
2021年12月20日みなさまはじめまして。12月から阿寒湖管理官事務所に着任しました、鉾之原(ほこのはら)と申します。
生まれも育ちも鹿児島県。春までは奄美群島の徳之島で、特別天然記念物アマミノクロウサギや1トン近い牛同士が戦う「闘牛」を見て過ごしていました。今まで雪国に住んだことがない、"北国初心者"です。
少しでも早く北海道の自然を理解していけたらと思います。よろしくお願いします。
さて、みなさまは各種報道でご存じかもしれませんが、先日、阿寒湖のチュウルイ湾に打ち上げられたマリモの移動作業があり、環境省も地域の方と協力して作業を実施しました。
【経緯】
12月1日に起きた強風により、チュウルイ湾の東側から中央にかけて約150メートルにマリモが打ち上げられているのを、釧路市教育委員会のマリモ研究室が2日に確認しました。地元関係者に報告し、7日に関係者で現場を見て検討会を実施した結果、「すぐに対応すべき」という結論に至り、9日に救出作業の実施が決定しました。
強風で打ち上げられたマリモ 打ち上げの様子を確認する地元関係者
【なぜやるの?】
マリモ研究室の尾山洋一氏によると、「本来、マリモの打ち上げは、大きなマリモが湖岸で砕けてばらばらになることで再び湖に戻るプロセスの一つ」で、マリモが増える上で必要な現象なのだそう。しかし、今回の強風では、高波により普段は波が届く距離を超えた位置まで打ち上がってしまいました。そのため、湖に戻ることができない高さまで打ち上がったマリモを湖に返すための作業が必要になります。
「自然の摂理なのだから放っておけば?」という疑問もあるかもしれませんが、元々球形のマリモが減少しているのは私たち人間の生活が原因の一つともされており、マリモの数をこれ以上減少させない観点からも、人の手で保護しようと救出作戦を決行するに至ったそうです。
【決行日】
当日は地元有志の呼びかけで約50人が参加しました。
マリモ研究室の指導のもと、地元漁協などから借りたポンプを使い、水流で湖岸のマリモを湖へ。水の中へ戻ったマリモがより効率的に沖に運ばれるよう、スコップやレーキなどを使ってかき出していきました。
当日の最高気温は5度。吐く息も白い中、皆さま胴長を着込んで水と泥にまみれながら作業に没頭し、約6時間かけて無事作業を終えました。
ポンプでマリモを押し流す作業 流したマリモを沖にかき出す作業
作業前 作業後
【マリモ漂着の裏で・・・】
ちなみに、マリモ漂着と同時に大量の水草(マツモ)も漂着していて、漁船1隻を使って回収作業も行いました。近年、球形のマリモの確認面積は減少傾向となっている一方、水草の繁殖範囲が増加してきています。水草が増えることでマリモが回転する波の動きが制限されるなどの影響もあるようで、水草がなくなることで、マリモの生育環境の改善が期待されているようです。
今回の強風が阿寒湖のマリモにとってどのような結果をもたらすのか、注目です。
漂着した水草の回収作業
【作業を終えて・・・】
アクティブレンジャーとして、初めて地域の方々と合同での保全作業となりました。現状確認から1週間。地元関係者に報告してからわずか2日間という迅速な対応となりました。湖面凍結前で急いでいたとはいえ、即座に対応した住民の方々のフットワークの軽さには頭が下がるばかりです。
作業後には、阿寒湖観光協会の松岡尚幸理事長が「特別天然記念物のマリモは、地元にとっては"国宝"に近い。みなさんは"国宝"を守ったと思って胸を張ってほしい」と一言。
私も皆さんの"地元の宝"を守る手伝いができたでしょうか。全身に筋肉痛を感じつつ、少しだけ胸を張って帰途につきました。
今後も、このページを読まれる方々に喜ばれるようなアクティブレンジャー日記を投稿できるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします。