アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
羅臼岳登山道を近自然工法で整備!!
2021年12月20日山には雪が積もり、冬へまっしぐらの知床から
今回は今年の夏に羅臼岳登山道(岩尾別コース)で実施した、「羅臼岳登山道整備イベント2021」の様子をお届けします。
このイベントは2020年10月の大雨により、登山道のあちこちで確認されるようになった土壌侵食について、関係行政機関や地元山岳会が中心となって「登山道を直せないか?」と企画したものです。
↑石組み崩壊の様子。大雨により石が流れ、土壌が侵食されてしまっています。
今回の登山道整備は「近自然工法」で行いました。
「近自然工法」とは、できる限り自然界にある構造に近い方法で施工することで、自然環境を復元させるという考え方に基づく工法です。この方法で整備することによって、人が歩きやすくなるだけでなく、土壌流出を防いでくれる植物も回復。さらに、再生した植物が根をはることによって強度も増すという良いことづくめの工法です。
今回の講師として、地元で山岳ガイドも行っている知床山考舎の滝澤氏をお招きしました。
「さあ整備だ!」とすぐ山に行きたくなるところですが、まずは滝澤さんと一緒に近自然工法のことや羅臼岳登山道の自然環境のことをしっかり勉強です!
近自然工法では、まず、登山道が崩壊してしまう要因を考えます。登山利用者の足を運ぶ位置、周囲の自然環境の状況、降雨の際に登山道を流れる水の動きなど、色々なことを考慮する必要があり、とても想像力が求められる方法だということが分かりました。
さて、待ちに待った現場での作業です(僕は体を動かすのが好きです)。
登山道の整備を行うためには、まず、作業に使う資材や工具を目的の場所まで荷上げする必要があります。土のう袋で岩を運ぶ人、木材を担ぐ人、整備道具を持つ人、個人の体力を踏まえながら役割分担をします。
皆で汗だくになりながら資材を運びました。
目的の場所へ到着して「さあ、道を直すぞ!」と意気込んでも、まだ始められません。
現場の状況をあらためて確認しながら、どのように登山道を直すと良いか、吟味に吟味を重ねます。ここで勢いで作業を始めてしまうと、後戻りできなくなるからです。
なぜ登山道が崩壊してしまうのか(侵食要因)、人はどのように歩くのか(登山利用者の動き)、周囲はどのような環境なのか(自然環境の把握)。事前の勉強会を思い出しつつ、参加者同士で色々と話しながら、頭をフル回転させて、整備後の仕上がり像を想像します。
イメージが定まり、みんなの認識が共有されてから、いよいよ作業開始です。今度は、石を組んだり、木を差し込んだり、現地で足りない資材を調達したり、肉体をフル稼動させて大忙しでした。
ですが、山のために汗をかいていると自然と笑顔になってしまいます。
完成です!
↑近自然工法(石組工)の施工前(左写真)と施工後(右写真)の登山道
↑同じく木柵階段工の施工前(左写真)と施工後(右写真)の登山道
7月と8月の計4日間(勉強会を含む)で延べ51名が参加して、合計8カ所の登山道を直すことができました。
一見すると登山道が崩れていたと分からないくらい自然に溶け込み、とても歩きやすい道になりました。
完成後は、それぞれが施工した登山道のお披露目会です。(作業はいくつかのチームに分かれて行いました。)
作業中、大変だったところ、工夫したところのPRをしたり、互いに良い点を褒めあったり、想いやこだわりを共有し合いました。愛着がわく登山道になりました。
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登山道整備のイベントは終わりましたが、整備して終わりではなく、その後、登山道は維持されているのかを確認することも大事なことです。今年は、その後も何度か大雨が降り、整備した資材が流されていないか心配でしたが、巡視の際に確認したところ大きな侵食はありませんでした。一安心です。
すでに羅臼岳は雪に被われ、冬ごもりしてしまいました。
春、山肌が垣間見え、雪解けの時期を迎えても、ちゃんとこのまま残っていて欲しいと心から願うばかりです。
普段、山からたくさんの恩恵を受けている私たちですが、少しでも山のために行動できたのではないかと嬉しくなるのでした。
今回ご協力いただいた皆さま、重い資材を担ぎ上げ、現地での作業、本当にお疲れ様でした。
↑雪化粧された羅臼岳 (2021.11.8 撮影)