アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
パークボランティア冬期研修会 前編【低体温症】
2022年02月18日ご無沙汰しています。大雪山国立公園 東川管理官事務所の渡邉です。
2月12日(土)・13日(日)に、大雪山国立公園パークボランティア冬期研修会を開催しました。
今回は12日に行った室内研修の様子をお届けします。
講師は山岳医療救助機構の大城和恵医師、村上富一氏に来ていただきました。
大城先生は日本人初の国際山岳医で、テレビ出演も多くされており、冒険家 三浦雄一郎氏が世界最高齢の80歳でエベレストに登頂したときのチームドクターを勤められている著名人です。
村上先生は北海道警察山岳遭難救助隊の指導官を長らく勤められ、現在は山岳医療救助機構に所属され、日本の山岳遭難を減らすための普及や救助隊の指導にご尽力をされている山岳遭難のエキスパートです。
本州の山では外傷を負うことでの遭難が多いですが、北海道は低体温症の遭難が最も多く、地球温暖化により脱水・熱中症での遭難も増えていることから、今回は低体温症と熱中症の基礎知識と、予防・症状が出てしまった場合の対処法をメインに講義をしていただきました。
実は、本研修はパークボランティアの関心度がとても高く、当初はたくさんのお申込みがありましたが、新型コロナウィルス蔓延により参加を辞退された方が15名もいらっしゃいました。
残念ながら来られなかった方のために、詳しくレポートしたいので、今日は前編【低体温症】、後日後編【脱水・熱中症】の2回に分けて書いていこうと思います。
低体温症は、2009年7月に起こったトムラウシ山大量遭難事故で亡くなった方の多くの死亡理由が低体温症であったことから世間への低体温症の認知も上がりました。
低体温症は深部体温が35℃以下まで下がった状態のことで、軽度は体の震え、中度は意識障害、重度は脈と呼吸が弱くなり、最悪死に陥ってしまいます。
低体温症での遭難は実は冬よりも夏の方が多く、5月が最も多い月だそうです。冬は防寒対策をしっかりしますが、春・秋は季節が中途半端なため防寒装備がおろそかになり、低体温に陥るそうです。
低体温症を防ぐためには、季節に応じた登山装備をすること、体を濡れないよう正しいレイアリングをすること、着替えを持参したり、ゴアテックス性の防水・透湿性のレインスーツの着用、悪天時には計画を中止する勇気を持つこと等が対策となります。
もし、低体温症になってしまった場合の対処方は 「食べる」「隔離」「保温」「加温」 の4つです。
低体温症の初期症状のサイン"震え"。"震え"は、体温を維持するために筋肉が収縮をするためです。
もし"震え"が出たら、すぐに「食べる」ことが一番早く自力回復できる手段です。震えるためにはエネルギーが必要で、エネルギーが切れてしまうと震えることはできません。エネルギーが切れないためにカロリー摂取が必要で、理想はブドウ糖を含んだ1000kcal以上の炭水化物を食べ"続ける"ことが良いそうです。
また、温かい飲み物も有効な気がしますが、温度が高いだけだとカロリーが足りないため、お汁粉などの甘い飲み物が効果が高いそうです。
震えているときはまだ意識があり、初期症状のため、自覚症状が出た場合はすぐに上記の対処しましょう。このまま症状が進んでいくと、意識障害がではじめ、操作が緩慢になり(いわゆる面倒くさい)、防寒着を着ない、食料を食べないという悪循環に陥り、中症状以上になると自力下山が難しくなってきてしまいます。
「隔離」は、体が風に直接あたらないためにゴアテックス性のカッパを着たり、小屋に入ったり、岩陰に隠れること。山岳医療救助機構が商品化したDKシェルター(どこでも隠れるシェルター)も見せていただき、ビバークのデモンストレーションをしました。ツェルトに近いのですが、四隅にゴムが入っていて、広げてかぶるだけで設営は不要で、スポッと包まれるような感じになり、ツェルトよりも広々として作業もしやすいです。隠れる場所がないとき、この中で携帯トイレを使用するにも良さそうです。
「保温」は防寒着を着ること。頭と首は血管が収縮せず体温が逃げやすいため帽子を被ったり、首を包むこと。
「加温」は湯たんぽなどで体を温めること。一番良いのはプラティパスに熱湯を入れ、胸に当てることです。プラティパスは接触面積が広いのが良いそうで、手足が冷たいからと言って指先に湯たんぽをつけてしまうと、冷たい血液が心臓に回ってしまうため、手足が冷たいうちは必ず体幹(胸)に湯たんぽを当てるのが重要だそうです。
カイロは温度が低く接触面積も小さいため予防には良いですが、低体温症になってしまった場合にはカイロの効果は薄いそうです。
私は寒がりなので、低体温症にならないために一年中対策はしっかりしていたつもりでしたが、今回の研修で最新の活きた知識を学ぶことができ、もし低体温症になってしまった場合にも正しい対処ができると自信が持て、本当に良かったです。
「食べる」「隔離」「保温」「加温」覚えましたか?
それでは後編の【脱水・熱中症】もお楽しみに!