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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

豊漁願い、カムイノミ

2022年09月08日
えりも自然保護官事務所 熊谷 文絵
みなさんこんにちは、えりも自然保護官事務所の熊谷です。

少しずつ、秋の気配を感じるようになりました。この季節といえば!えりも町内で「秋さけ定置網漁」が解禁されました。

かつて、アイヌ民はカムイノミ( “カムイ(神)”“ノミ(に祈る)”)すなわち、人間が生活をする上で必要なことを神に祈る儀式を行っていたそうです。サケが遡上を始めるこの季節には、河口に祭壇を設け豊漁を願います。
北海道の開拓が進む中で、アイヌ文化に対する否定的な風潮が続いた時代がありました。多くの地域において、昔のしきたりなどに詳しい古老が少なくなっていき、カムイノミ等の儀式は行われなくなっていきました。
えりも町では、カムイノミそのものは実施されていません。各会社ごとに神社でお参りをしたり、地域の秋のお祭りにおいて豊漁祈願をしています。
形が変わってしまっても、豊漁を願う気持ちは今も昔もみな同じです。
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お祭りの時にだけ泳ぐ大漁旗
ゼニガタアザラシ国内最大の生息地および繁殖地である襟裳岬。
アザラシは生きていくために餌を必要とします。非常に賢い生き物ゆえ、周辺の定置網に魚がかかることを覚え、網に入って魚を食べたり、食べようと追い回すことでキズを付けてしまいます。こうした魚の多くは出荷することが出来ず、漁師にとっては損害といえます。
とはいえ相手はアザラシ。網に入った魚は食べないようにと言葉で伝えたとてやめてもらえません。どうしたらアザラシによる食害を抑えることが出来るのか、えりもの海況やえりもの定置網に適し且つ効果的な方法(対策)を考える必要があるのです。

記録的不漁と言われ始めてから早5年が経ちました。その間、豊漁だった年はありません。ただでさえ魚が獲れなくなってきているのに、獲れた少ない魚までアザラシに喰われてしまったら…漁師の不安も理解できます。そして、本当に資源が少なくなってきているのなら、アザラシも十分な餌を得られているのか心配です。

これまで様々な方法を試してきました。
定置網は文字通り定められた場所に仕掛けた網。その網に、アザラシを寄せ付けぬようアザラシにとっては不快と感じる超音波を利用した装置、光を利用して退散させようとする装置、また魚は入れるけれどアザラシは入れない格子状の網(防除格子網)など…
今のところ、防除格子網の感触がよく、格子の目の大きさ・素材・色などに改良を加えよりよい対策となるのではないか試しているところです。
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防除格子網取り付けの様子
それでもなにより、やはり豊漁であってほしい。
アザラシに必要な餌資源、漁師の生活を維持するために必要なだけの漁獲…どちらも満たされるよう今年も豊漁を祈願します。

えりも岬漁港、初日の漁獲は…
港に戻ってきた船はどっしり沈み、タンクに多くの魚が入っていそうないい予感。
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帰港の様子
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船の中央、タンクからブリが溢れそう!
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大漁!!
この船だけでブリがなんと20トン!!! 深さ2mほどあるタンクから溢れそうになるほどです。
別の船も合わせたえりも岬漁港全体の水揚げは50トン!近隣の漁港でもトン単位での水揚げとなり、「こんなに入ってゆるくない(大変)さぁ~」なんて言いながらも、漁師のみなさんの表情はとっても晴れやか✨ よいスタートとなりました。

“秋さけ”定置網漁ではありますが、気候変動の影響か気温だけでなく水温も高くなってきていて、4~5年前から9月にはブリが多く獲れるようになりました。
とはいえ、水温が1・2度違っただけで、潮の流れ方が少し変わっただけで、漁模様はガラッと変わってしまいます。一過性のものでなく、豊漁の恵みを得られますように…!!
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出港直前の様子
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いざ出港!この、早朝に船が漁に出て行く様がとても好きです