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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。
支笏洞爺国立公園 支笏湖地区(定山渓・支笏湖)の情報を、アクティブ・レンジャー奥脇が発信しています

樽前山コマクサ除去

2025年07月03日
支笏湖 奥脇百花
皆様こんにちは。
先日、パークボランティア・協力者の皆様と一緒にコマクサ除去作業を行いました。5/29、6/10の2日間行ったのですが、どちらも良いお天気で、きれいな景色の中で作業を行うことができました。活動にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
今回の様子をご紹介する前に、そもそも「コマクサ」とは何なのか、どうして除去しなければならないのか、ご説明させていただきます。
 
はじめに「コマクサ」について紹介いたします。
 

「コマクサ」とは

漢字で「駒草」と書くのですが、お花の形を馬の顔に見立てて付けられたと言われています。ほかの植物が生育できないような、過酷な環境下で可憐な花を咲かせること、花の色が美しいことから「高山植物の女王」とも呼ばれています。(諸説あり)
 
基本的には濃いピンクのお花が咲くのですが、樽前山ではたまに白いお花も咲いていることがあります。葉はパセリのような見た目で、少し白っぽい緑色をしています。根はとても長く、茎の長さの2倍以上はあると言われています。(実際に除去作業を行ってみると、茎の3倍はあるのではないかと思うほど長い根を張っていました)
コマクサ
コマクサ
 
コマクサを目当てに登山を行う方もいらっしゃると思いますので、除去作業について、疑問を持たれる方が多いのではないでしょうか。では、なぜ綺麗なお花を除去しなければならないのか。それは、樽前山がコマクサの本来生育していた場所ではないことが関係しています。
 

除去に至る経緯

北海道内では本来、大雪山系や日高山脈・知床半島の一部に自然分布しており、もともと樽前山にコマクサは生育していなかったのですが、昭和61年頃に人の手によって植えられてしまいました。
(日本国内には生息・生育しているが、人間活動よって本来生息・生育していなかった地域に定着してしまった生物を国内外来種と言います)
このような国内外来種は、本来生息・生育していた生物(在来種)の生息・生育場所を奪ってしまう恐れがあります。樽前山ではイワブクロ(別名:タルマイソウ)やコメバツガザクラなど、貴重な在来の高山植物が多く生育しています。
 
何も行動を起こさなければ、樽前山本来の景観がなくなってしまう可能性も考えられるので、外来コマクサの生育地の拡大を防止するために今も活動を続けています。
森林限界辺りからの眺め
 
コマクサという植物、除去作業を行っている理由について、知っていただけたでしょうか?ここまでの内容を踏まえた上で、今回の活動の様子を見ていただきたいと思います。
(ここからは写真が多くなります。活動内容と一緒に綺麗な景色をお楽しみください。)
 

1回目(5/29)

注意事項や今日の流れについて説明中

作業内容や登山時の注意事項についてお話をしてから登山を開始しました。(登山道ではないところで作業を行うため、一般登山者の方が誤解されないように、リュックには「植生調査実施中」と記載したラミネートを付けています。)

最初の方の登山道は両サイドが木々に覆われて、トンネルのようになっています。まるでジブリの世界に入り込んだようです。
樽前山は火山活動によってできた山で、登山道にも本州の富士山のようにガラガラとした石が転がっています。周りを覆っていた木々がなくなるので、一気に空が広がる開放感があります。
昨年度に登山道が整備され、柵や土嚢が新たに設置されていました。それでも傾斜が急なところは多いので、足元に注意しながら登っていきました。
コメバツガザクラ
 
森林限界を過ぎると、登山道脇にはコメバツガザクラが咲いており、斜面が白くきれいに彩られていました。

山頂付近の作業地点に到着したら作業開始です。ご参加いただいた皆様と一列になって、見落としの無いように作業を進めました。毎年活動を行っている地区では小さな株が多いので、作業に慣れるまでは見つけることが難しいです。この地区は毎年活動を行っているので、かなり株数が少なくなっており、活動の成果を感じました。
毎年活動を行っている地区
 
作業中にはユキウサギの姿を見ることができました。かなり傾斜がきつい斜面を軽々と走っていく姿に、野生で生きていく動物の強さを感じました。
コマクサが昨年新たに見つかった地区でも作業を行いました。足元を見ればコマクサが生えているというほど大量に、広い範囲に生育していました。さっき生えてきたのではないかと思えるほど、細く小さなコマクサも沢山生えており、細かな根まで取り除くのは一苦労でした。

2回目(6/10)

この日も快晴で登山日和の1日でした。
5月の下見時には咲いていなかったコマクサが大量に咲いている地区があり、お花畑のようになっていました。思わず綺麗だと思ってしまいますが、樽前山で見られるべき景色ではないことが残念ですね…
この地区はかなり傾斜があるので、慎重に作業を進めました。
白いコマクサもところどころ咲いていました。お花に罪はないので、除去するときは心が痛みます…
除去の様子
 
2日間の合計27名で除去作業を行い、合計で約3400本(推定)、約2.3kgのコマクサを除去することができました。この作業によって樽前山の本来の景観に少しは近づくことができたかもしれません。

終わりに

樽前山に登らなければ見ることのできない特別な景色を取り戻すために、これからも除去活動を続けていきたいです。活動を続けることで、本来生育していた植物が、今よりも生き生きと、山を彩る姿が見られるようになったら良いなと考えております。
ウコンウツギ
 
私たち人間を含めて、生態系は繋がっています。皆様にも、山にごみを捨てない、ポールの石突きにはキャップをつける、登山道を外れずに登るなど、自分にできることを少しでも意識していただけると幸いです。1人1人の小さな心がけで、大きな影響を生み出すことができます。
 
これからも自然、山を楽しめるように、皆様と一緒に今ある自然を大切に守っていけたらうれしいです。
 
最後まで読んでいただきありがとうございました。

「環境省アクティブ・レンジャー写真展 ~北の自然の舞台裏~」


支笏湖では8/9~8/31に開催します!

場所:支笏湖ビジターセンターの多目的室
(12~3月の開館時間は9:30~16:30 火曜日休館)

皆様のご来場、お待ちしております。


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