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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

大雪山のウスバキチョウ

2022年08月01日
上川 忠鉢伸一
こんにちは。大雪山国立公園管理事務所の忠鉢です。
 
登山口へ続く林道が開き始めた6月中旬から7月上旬にかけて、大雪山各地で大雪山パークボランティアと一緒に高山蝶パトロールを行ってきました。
高山植物の盗掘や、高山蝶の密猟を防ぐために例年行っています。
 
  
コマクサ平での高山蝶パトロール【6月撮影】
 
今回は大雪山に生息する高山蝶、ウスバキチョウについて紹介します。


ウスバキチョウ【6月撮影】
 
氷河期の落とし子と呼ばれるウスバキチョウは大陸から渡ってきたのち、温暖化がすすみ大陸と日本列島が分離され北へ帰ることが出来なくなったため、高山帯へ上っていったのではないかと言われています。一部の高山植物や、ナキウサギも同じような道を辿ったのではないかと考えられ遺存種と呼ばれています。
 
ウスバキチョウは1965年、国の天然記念物に指定されました。
日本の天然記念物に指定されている7種の蝶のうち4種が大雪山に生息しています。
これらの蝶は、卵や幼虫も含めて、いかなる場所においても捕獲が禁じられています。
 
ウスバキチョウの雄は早めに羽化して雌の羽化を待ち、雌は羽化してすぐに交尾します。交尾後の雌は腹部下面に袋状のスフラギス(交尾後付属物)をつけています。これは交尾済みの印として雄に知らせるものと言われ、雄雌を見分ける目安になります。


ウスバキチョウのスフラギス【6月撮影】
交尾の翌日くらいから産卵は始まり、その後数週間のうちに幼虫の身体は形成されはじめますが孵化はしません。卵のまま冬を越すためです。
約1年後、卵から孵化した幼虫はウスバキチョウの幼虫はコマクサの新葉や茎を食べて成長します。約3ヶ月の幼虫期間に4回の脱皮を経て繭になり、2回目の冬を越えるのです。大雪山の高山帯という厳しい環境の中で、丸2年という期間を生き延びて成虫にまで成長するのは、100個の卵のうち1頭にも満たないかもしれません。
 


コマクサを食べるウスバキチョウの幼虫【7月撮影】
 
当然コマクサが減少すればウスバキチョウの数も減ってしまいます。ウスバキチョウの生息環境を維持するためには、食草になるコマクサの保護が必要不可欠なのです。
ウスバキチョウのように幼虫が特定の植物しか食べなかったり、生息域が限定されていると、少しの環境の変化で個体数を減らしてしまうのです。言ってみれば高山蝶は、生態系のバロメーターになっていると言っても良いかもしれないですね。