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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

【えりも】秋の調査が終了しました

2022年12月15日
えりも自然保護官事務所 熊谷 文絵
みなさんこんにちは。えりも自然保護官事務所の熊谷です。

秋季の約3ヶ月間にわたる乗船調査が終了しました。
えりも事務所の、春(5-6月)と秋(9-11月)毎日のルーティーンともいえるこの調査。
乗船調査って…船に乗るとは分かっても、具体的にはどんなことをしているのか。今回は、定置網実施時期の動きを紹介しつつ、私なりの感覚を言葉に変換し、みなさんにも疑似体験を味わってもらいたいと思います。

その前に予習を少し。
アイヌ語では(種を問わず)アザラシのことを「トッカリ」、そのトッカリが食い散らかした魚を「トッカリ食い」と呼びます。えりも町の中でも、生息地に近いほど「トッカリ」という呼び方が馴染み深いようです。


では、スタート!

【4:15 出勤】

事務所に出勤したと同時に準備開始!

■乗船調査で使用する水中カメラ
定置網の魚が溜まる網に入ってくる魚と近寄るアザラシの動きを捉えるため仕掛けているカメラです。リアルタイムでの撮影ではないため、毎日設置・回収を繰り返し、回収した映像は後ほど分析します。
出来るだけ充電満タンの状態で海に入れたいので、朝に準備。事務所を出た後に忘れ物に気づいても取りに帰る時間はありません。事前の準備をぬかりなく。
☑カメラの充電、SDカードOK
☑外付けバッテリーOK
☑今、動くかどうかの作動確認OK

■乗船時に自身が着用する色々
乗船中は船員の方々に余計な心配をお掛けしないよう、自分の身を守る装備を忘れずに。
☑水産合羽の上下
☑長靴
☑ヘルメット
☑救命胴衣
☑調査用紙
☑先ほど準備した水中カメラ(えりもの海況に負けないよう、ハードケースに入れています)
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カメラOK!
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乗船グッズもOK!!

【事務所出発!】

特に秋の漁期は3ヶ月と長いので、季節が進むにつれて日が登る時間が変動します。それに併せ出港時間も少しずつ変更になります。
・9月は4:15に出勤して4:20事務所出発、4:50ごろ出港。
・11月は4:15に出勤して4:45事務所出発、5:30ごろ出港。
となっていました。いずれの時期も、現場への移動はシカが動く時間帯。注意しながら運転していきます。

【港に到着】

港に到着したら、合羽を着込み水中カメラのスイッチON。乗船準備を整えます。
季節が進み、この時間はまだまだ真っ暗。暗くてキーンと冷えた空気を感じて、改めて、これから海に出るんだな、と気を引き締めます。
乗船中に作業をして暑くなることを考慮して、出発時はやや寒くても我慢。。乗船中は脱ぎ着している時間がありません。すぐに剥がせない腰などにカイロでも貼った日にはもう…帰港する頃には汗だく、注意が必要です。

【出港!】

我々が乗船している船の持つ定置網は、港から5分足らずの場所に位置しています。
そこまでの移動中、例年であれば、11月上旬には山に雪が降りその様子を見ては「雪だ!そりゃしばれるわけだ~!」なんて話すものですが…今年は寒さが増してきてはいたものの、体感では1ヶ月ほど季節が遅れている感覚で、覚悟していたほどの寒さになることはありませんでした。漁期の最後まで、ネックウォーマーや耳当て必要としなかったのは今年が初めてです。

この時から、トッカリが近くに来ていないか気にしながら向かいます。
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山に雪が積もっていました。例年に比べ1週間ほど遅いようです

【定置網のポイントに着いたら…】

船を固定するためのロープをつかまえます。
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揺れ動く中、海に浮かぶ固定用ロープを捉えることに集中!
船が動いていて、風・波を受ける中で特に集中して行うものです。この時、私は漁師のみなさんのタイミングを乱さぬよう、安全に乗船していることが分かり、それでいて邪魔にならない位置にいることを心がけています。
この時もまた、トッカリが網の近くにいないかよく観察します。
網に船が近づき逃げるトッカリ、一旦少し離れたところに逃げた後こちらの作業の様子を伺うトッカリなどがいることも…(この日はいませんでした)

船をよい位置にロープで固定させたら、早速網を興していきます。
ここからは私も参加。みんなで一列に並び、片側が早すぎることのないようペースを図り箱形の網をたぐり寄せ、中にいる魚を奥へ奥へと寄せていきます。
この時も波風があれば揺れる揺れる、近くばかりを見ていると船酔いします。手元に注意を注ぎながらも時々遠くを見ることを忘れずに。
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みんなで網を興していきます
そうして最後にたわんだ場所に溜まった魚を大きなタモ網ですくい上げ、船のタンクに移します。このタモ網、満杯に入れば300㎏ほどもあるので気を抜くと船の上で振り子のように動いてしまい危険です。作業が安全に進むよう、柄を持つ人の他に3人程度がタモ網に繋がるロープを用い支えています。
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11月も進むにつれ、サケが多くなってきました
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サケの質も良くなっているようです!(奥に見えるのは襟裳岬)
私はこの後、水中カメラの交換をお願いし、漁獲された魚とトッカリ食いを数えて記録。
今日のトッカリ食いは少なめ、昨日から今日にかけてこの網に近づいたトッカリは少なかったようです。
興した網を海に戻すときには、魚は通れるけれどアザラシの侵入を防ぐために設置している“防除格子網”はうまく広がったかな?カメラは何かに引っかからず上手く入ったかな?など確認します。
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交換したカメラを海に戻す様子
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被害軽減対策の格子網、上手く広がりますように…
この船の定置網で、興す網は4ヵ所。同じ作業を4回繰り返します。
それぞれ離れている距離は数百メートルで、大して条件が変わらないようにも見えますが複雑に変化する潮流により魚の入り方が大きく異なります。
移動中に波を受けないように!正面から波を受け、肌に直接触れると途端に体温が奪われます。必ずどこかにつかまりながら、合羽のフードを被ったり進行方向に背を向けたりと工夫必須。

【帰港!】

全ての網を興し終えたら、港に帰ります。
港に着いたら、魚を選別し市場のタンクに移し替えます。ここでは、さけを雌雄・重さ別の規格ごとに選別していきますが、漁師のみなさんはパッと見ただけで、尾を掴んだだけで…量ることなくものすごいスピードで選別。この辺りは長年の経験が光ります。
この時、タンクに混じっていたトッカリ食いも分けていきます。
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選別の様子
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トッカリ食い。多くの場合、頭部がなくなっています
このトッカリ食い、これまでは多く出てしまった場合、安価での取引とはなるもののツブの餌として活用されてきました。しかし、昨年発生した大規模な赤潮により大きな影響を受けたツブ。ツブが減り、餌としてトッカリ食いの需要が減りました。活用される機会を失い、ただただ被害を受けただけで、漁師にとって「値の付かない損失」という状況となってしまっています。

【港での情報収集】

乗船した船以外の船での漁獲や被害の状況がどうであったか、漁師の皆さんとのお話をする中で確認します。また、近隣の港の速報もこの時間に確認し全体像をイメージします。えりもの海のこと、魚のこと、アザラシのこと…えりもで仕事をする上で知っておきたいヒントが詰まっている時間です。

■○○(船の名前)のとこはサバが入ってるって!したらマグロでも来るかな
 →サバとマグロの好む水温が近く、サバを追ってマグロが回遊します。
■サバ水(さばみず)だもんサケ来ないわな~
 →昔から、サバとサケの水は合わないとされ、サバが来ているうちはサケが獲れないと云われます。
■サケちょっと型よくなってきたんでないか
 →3ヶ月の間に徐々にサケも成長し、型が良く大きいものが増えてきます。
■メスが増えてきた、明日(もう少し)獲れるかもしれない
 →秋サケ漁では、早い時期にオスが多く季節が進むにつれてメスが多くなる傾向があります。
■この海(波や風の様子)なら魚来ない、明日はダメだ
 →海表面や潮流を見て、魚が入りやすいまたは入りづらい海なのかが分かるそうです。
■ここにいるトッカリは(別の会社の)船が近づいたって逃げない。その網の持ち主の船かどうか、ちゃんと音で聞き分けてるんだ。
 →A社の網に執着したトッカリは、B社の船がA社の網のすぐ横を通っても逃げません。魚を食べてもB社には怒られないことが分かっている様子です。

こんな風に、えりもの海を知る漁師さんの経験からくる 主に“感覚”を教えてもらいます。

【事務所に戻ります】

事務所に戻り、回収したカメラの映像を確認。定置網にアザラシが寄っている様子(特に寄って来た際にどんな動きをしているか)や設置している網に状況の変化があれば漁師さんと連絡をとり、情報を還元。明日漁に出たときに何らか手を加える必要があるかなど相談します。 ここまでが乗船調査期間中の毎日のルーティーン。 終了時間はその日によってマチマチですが、特別なことがなければ、およそ半日です。
読み進めてくださった皆さんもお疲れさまでした。何となく寒い感じがしませんでしたか、一度あたたまってくださいね。 定置網漁が終わった今、とり溜めた3ヶ月間の記録をまとめています。 外業メインから内業メインへと変わったものの、未だ乗船調査の時期と同じく早朝3時過ぎに目が覚めてしまうそれは職業病でしょうか。 頭を切り替え、せっせとパソコン作業に取り組んでいます。 土地柄、とりわけ強風の季節となりました。アザラシを観察できる機会が減り、今頃アザラシたちどうしているかな~強風を凌いで過ごせているかな~など、考えています。 ふと、アザラシは私が彼らを気にしていることなど知らないのだろうな…と思うと少し寂しくもありますが、それでも、アザラシが健康で快適に過ごせる環境があればそれが一番。結局はここに落ち着きます。 この先まとめが進み、今年の調査から分かることがあれば、皆様にも紹介したいと思います。 えりもの繁忙期の動きをご紹介しました。 北海道でこのようにサケの定置網漁が行われ、トッカリ業務に奔走するアクティブ・レンジャーがいることを知っていただけたら嬉しく思います。
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今日も無事、帰港しました
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毎朝自主的に参加しているカモメたち。強風の時は漁師の様に身をかわす姿は、えりものカモメ感たっぷり