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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

レブン〇〇特集

2025年09月11日
稚内 後澤 宏文
 こんにちは! 礼文島担当アクティブ・レンジャーの後澤です。
 礼文島にはレブン…の名を冠した植物があります。
 いくつあると思いますか?
 図鑑の種類や発行年によって違いますが,私が調べた中で最も多い図鑑(1997年発行 梅沢 俊 著『北海道 山の花図鑑 利尻島・礼文島』)では16種もありました。
 それらを全部写真に収めたいと思い頑張ってみたところ,これまでに14種を撮ることができましたので,季節を追ってご紹介します。学名にもrebunnがつく植物については,学名も( )でご紹介します。

①5月中旬に咲き始めるレブンコザクラです。ユキワリソウの変種で,利尻島や夕張山地,知床にも分布しています。
②5月下旬に咲き始めるレブンアツモリソウ(Cypripedium macranthos var.rebunense)です。アツモリソウの変種で,世界中で礼文島だけに咲く礼文島固有変種です。
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①レブンコザクラ
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②レブンアツモリソウ
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③5月下旬に咲き始めるサクラソウモドキです。古い図鑑には,「利尻島と礼文島に産するサクラソウモドキを変種レブンサクラソウモドキとする見解もある」と書かれていました。現在ではその見解はなくなり,サクラソウモドキに統一されています。
④5月下旬に咲き始めるナニワズです。③のサクラソウモドキと同様に古い図鑑では礼文島のナニワズがレブンナニワズという固有変種(var.rebunensis)として扱われていましたが,現在はその名前では載っていません。
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③(レブン)サクラソウモドキ
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④(レブン)ナニワズ
⑤5月下旬から咲き始めるレブンハナシノブは,カラフトハナシノブの花序が縮まる礼文島固有品種です。花が密につくのでとても華やかに見えます。
⑥6月中旬に咲くレブンキンバイソウ(Trollius rebunensis)は,分類学上チシマノキンバイソウと同種とされましたが,現在では礼文島にしかない礼文島固有種とされています。分類学は難しいですね。
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⑤レブンハナシノブ
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⑥レブンキンバイソウ
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⑦6月中旬頃に咲き始めるレブンシオガマは,キタヨツバシオガマの礼文島固有変種で,葉が5~6枚輪生し,花が15~30段にもなります。風衝地では背丈が低くなり,右の写真のように高さ10㎝ほどで花が1つだけというものもあって驚きました。
⑧6月下旬に咲き始めるレブンタカネツメクサは,エゾタカネツメクサの礼文島固有変種(var.rebunensis)で,茎の節間が短く葉が多いのが特徴です。
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⑦レブンシオガマ
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⑧レブンタカネツメクサ
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⑨7月上旬に咲き始めるレブンウスユキソウです。図鑑を調べると,エゾウスユキソウの別名としてレブンウスユキソウが載っています。昭和末期の礼文島のガイドブックには,「礼文島にあるエゾウスユキソウだけをレブンウスユキソウというのである。」と記されています。粋な説明だと思いませんか?
⑩7月下旬に咲き始めるレブンカラマツです。アキカラマツの礼文島固有変種(var.rebunense)とされています。普通のアキカラマツは山野に生え,背丈が50㎝を超えますが,礼文島では高山植物に混じって砂礫地や岩場でも花を咲かせていました。厳しい環境のため,背丈も20㎝ほどでした。このようなアキカラマツをレブンカラマツと呼んでいるそうです。
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⑨レブンウスユキソウ
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⑩レブンカラマツ
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⑪レブンソウは,世界中で礼文島だけにある固有種です。花の時期が長く,早いものは6月頃から咲き始めます。その後徐々に花が増えていき,7月下旬には一面紫色に咲き揃う様子も見られます。
⑫レブンサイコは,北海道の亜高山~高山の岩場に生える植物で,礼文島では7月上旬頃から花を開き始めます。背丈が15cmほどで,花もそれほど目立たないためか,なかなか出会えず,今年やっと写真を撮ることができました。
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⑪レブンソウ
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レブンサイコ
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⑬8月上旬頃から見られるレブントウヒレンは,現在はナガバキタアザミの別名とされています。礼文島の風衝地には背丈が15㎝程度のものが見られ,これが変種レブントウヒレンとされていたそうです。
⑭9月半ば頃にようやく咲き始めるレブンイワレンゲは,コモチレンゲの別名とされています。
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⑬レブントウヒレン
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⑭レブンイワレンゲ
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 以上,14種のレブン○○をご紹介しました。
 このうち,植物分類の研究が進む中で,分類元となった植物と同じであるとされた種が6種ほどありました。また,一旦は同じとされながら,やっぱり違うと改めて認められてきた種もありました。礼文島びいき(近年では“推し”というそうですが…)の私としては,別名が認められているならば,礼文島に咲くものは「レブン〇〇」と呼びたいなぁと思います。
 あと出会えていないのはレブンスゲ(=オノエスゲ)・レブンクモマグサ(=シコタンソウ)の2種です。いずれも希少な種なので,いつか出会ってみたいです。
 
 最後に,学名にレブンがつく花をもう1つご紹介します。⑮フタナミソウ(Scorzonera rebunensis)です。礼文島の固有種で,礼文島の二並(ふたなみ)山で発見され,この名がついたそうです。
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⑮フタナミソウ
 フタナミソウは,過去に盗掘によって激減した経緯があり,⑥レブンキンバイソウ,⑧エゾタカネツメクサ(レブンタカネツメクサ),⑪レブンソウとともに環境省レッドリスト(第5次レッドリスト)において絶滅危惧ⅠA類(深刻な絶滅の危機に瀕している種)に掲載されています。
 また,同レッドリスト絶滅危惧ⅠB類(絶滅の危機に瀕している種)には,③サクラソウモドキ,⑤カラフトハナシノブ(レブンハナシノブ),⑨エゾウスユキソウ(レブンウスユキソウ),⑫レブンサイコが掲載されています。
 更に,同レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)には,①レブンコザクラ,⑭コモチレンゲ(レブンイワレンゲ)が掲載されています。
 
 ②レブンアツモリソウは,今年初めにニュース等で話題になりましたが,環境省レッドリスト(第5次レッドリスト)で準絶滅危惧種(存続基盤が脆弱な種)にカテゴリー変更されました(以前は,絶滅危惧種ⅠB類とされていました)。絶滅の危機を脱したという評価は大変喜ばしいことです。引き続き,存続基盤が安定したものになるよう,保護増殖に取り組んでいきたいと思っています。

 礼文島には環境省レッドリスト(第5次レッドリスト)に掲載されている植物が上記のものを含め50種以上もあります。礼文島の貴重な植物がいつまでも咲き続けることを願っています。