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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

知床五湖スイレンバスターズ!2023

2024年09月25日
ウトロ 森下南美
4月に開園してから、国内外問わず多くの方をお迎えしてきた知床五湖。
知床を代表する場所の一つでもある知床五湖で、近年問題となっているものがあります。
それは、そう…、
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園芸スイレンです。

そもそもなぜ除去するの?

知床五湖に園芸スイレンが持ち込まれたのは1950年代のこと。当時は、観光名所になることを願って植えられたそうです。
それからおよそ70年経った現在、特に一湖ではスイレンの繁茂が進み、湖面のほとんどが覆われる状況になってしまいました。
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一湖湖面の航空画像
湖面に映る知床連山は年々小さくなり…
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2010年8月
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2018年8月
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2022年8月
それだけでなく、侵略的外来種である園芸スイレンの繁茂が進むことによって、ネムロコウホネやオオタヌキモといった希少な在来種の生息が脅かされてしまいます。
こうした状況を踏まえ、専門家の先生に助言をいただきながら、2023年度にスイレン除去がスタートしました。

調査&除去in2023

1953年に一湖にスイレンが持ち込まれたという記録は『斜里町史 第二巻』(斜里町役場、1970年)に残っていますが、スイレンの種名や、一湖の植生などは分っていませんでした。
まずは一湖の植生が調査され、その結果、以下の水生植物が主に確認されました。
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園芸スイレン(白)
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園芸スイレン(赤)
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ネムロコウホネ
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ヒルムシロ属
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オオタヌキモ
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ヨシ
同時に、専門家の先生にスイレンの生態と効果的な除去方法について助言いただきました。
スイレンは湖面に出た浮葉で光合成した養分を根茎に蓄えるそう。水深が深い五湖では茎を抜くことは現実的ではないため、浮葉を刈って光合成を阻害し、徐々に弱らせていくことを狙います。
 
一湖の周囲に道路や木道はなく、動力船や重機はおろか車も入ることができません。先生方の助言を元に、ゴムボートを採用。それではどこを歩いて湖岸まで行くのか?どこからボートを出すのか?などなど、机上でも現地でも計画を立て、スイレン除去試行日を迎えました。

スイレンバスターin2023

作業を行ったのは2023年6月27日と7月13日。
当日は3班に別れて、2班がゴムボートに乗って湖面で除去作業、残る1班は陸上で安全確保に当たります。ヒグマの生息地でもある知床五湖。当日もいつヒグマがやってくるか分りません。万一に備え、周囲の安全を確認しておく必要があるのです。
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湖岸に着いたらボートを膨らませ、
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ソリをひいて漕ぎ出します
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試行的にSUPも登場
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鎌やハサミ も試します
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レーキも登場
除去したスイレンはソリに乗せて搬出します。スイレンの葉は水分を多く含むため重く、車の入れないここでは搬出したスイレンの行方も課題の一つ。今回は、湖岸に残置し、経過を見てみることとしました。
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搬出したスイレン

課題

2日間で計4時間作業し、除去したスイレンはおよそ280kg。
すごい量!と感じますが、これは一湖のスイレンのほんの一部に過ぎません。

除去の前後を比べてみても、繁茂のスピードが速く、除去の効果は分りにくいのが現実です。
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左:除去前(2023年6月14日)、右:除去後(2024年7月21日)
また、今回の植生調査によって、一湖の水生植物の9割近くをスイレンが占めることが明らかになりました。
さらに、過去の一湖のドローン写真と比較することで、この2年間でも一湖の植生面積が増えているという結果も。撮影時期が少し異なるため生育状態も同一ではないことや、水量の変化によって一湖の面積も異なることを考慮する必要はありますが、この2年の間にもスイレンの繁茂は進んでいるということが示唆されます。
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一湖における水生植物の植被率の変化
暗い話が続いてしまいましたが、希望もあります。
まず、地域のみなさんが協力的なこと。次に、作業自体は難しくなく、達成感もあり楽しいこと。多くの方に参加いただける可能性があります。
 
2023年度の知見を活かして、来年に向けた計画が立てられました。
そして2024年、知床五湖のスイレン除去はどう進んだのか…?次回に続く!

詳しく知りたい方は

ここまでの内容は、知床データセンターで公開されています。
下記からぜひご覧ください。