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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

中島で見つけた小さい秋

2024年10月18日
洞爺湖 幸村 和実

洞爺湖中島

 洞爺湖と中島の形成過程を簡単に説明すると、まず約11万年前に洞爺カルデラが形成されました。その後、約5万年前に噴火が再発し、カルデラ中央に中島溶岩ドーム群が誕生しました。それが現在の洞爺湖中島です。
洞爺湖の成り立ち
洞爺湖の画像
洞爺湖

中島1周探検ルート

 日本の湖に浮かぶ島では、屈斜路湖に次ぐ2番目に大きな島で、大島・観音島・弁天島・饅頭島の4島の総称を「中島」と呼びます。一般に中島といえば大島のことを指します。上陸できる島は大島のみ(4月下旬~10月末)で、中島にわたる手段は遊覧船しかありません。実は中島には、延長約7.6㎞(約3時間)の遊歩道があり、洞爺湖有珠山ジオパークの散策マップでも紹介されていて、ちょっとした冒険気分を味わうことができます。国内の湖の中島(無人島)で、この長さのトレイルコースを持つところは他にないと思われ、貴重な体験ができるかもしれませんよ。

洞爺湖有珠山ジオパーク散策マップ「火山編」より抜粋 洞爺湖有珠山ジオパーク推進協議会 発行

 

中島とシカ

 中島にはもともとシカは生息していませんでしたが、1960年代に持ち込まれたシカが野生化し、爆発的に増えてしまいました。シカが増えたことで、シカが好む植物(嗜好性植物)が食べつくされ、シカが好まない植物(不嗜好性植物)が繁茂し、極端な植生となってしまいました。
 過去の調査では、460種あった植物が150種まで減ったとの報告があります。
 中島にあるシカの不嗜好性植物として、ハンゴンソウ、フッキソウ、フタリシズカ、アメリカオニアザミなどがあります。防鹿柵で囲ったところの植生が、その周りと比べて豊かだということがよくわかると思います。仮に、シカがいなくなるとすると、どのように植生が回復するのか見てみたいですね。
 
防鹿柵の画像
防鹿柵で囲ったところとの差が顕著にわかる場所
フッキソウだらけの画像
林床がフッキソウだけになっています

アメリカオニアザミ

 アメリカオニアザミは、生態系被害防止外来種に指定されていて、繁殖力が強く鋭いトゲが特徴です。
 シカの不嗜好性植物は、毒があるもの(ハンゴンソウやフッキソウ)が多いですが、アメリカオニアザミは、鋭いトゲによってシカの採食を免れています。防除作業でも、厚手の皮手袋を突き破って、とても痛いです。
ロゼットの画像
タンポポのようにロゼット(放射状に地をはう)をつくります
アメリカオニアザミの花の画像
花は紅紫色、種子は綿毛で風に乗って拡散します

中島パトロール

 今回は、パークボランティアのみなさんにご協力いただき、アメリカオニアザミの分布調査と、ゴミ拾いをしながら中島を一周してきました。
 その中で、秋を感じた植物をみつけたのでご紹介します。
  
   
          ヨウシュヤマゴボウ(有毒)                             ヤマブドウ
 一見似ていますが、ヨウシュヤマゴボウは茎が赤いので見分けやすいですね。有毒なので食べられません。一方ヤマブドウは食用にされていますね。中島は無人島で、しかもクマがいないのでたくさんありました。
   
              ムラサキシキブ                               クサギ
 ムラサキシキブ:名前と相まって、淡い紫が見ていて心地よさを感じました。これから紫が濃くなっていくのでしょうか。色が美しいので、観賞用に栽培されることもあるそうです。 
 クサギ:樹林の中で鮮やかな色で目立ちます。独特なにおいはありますが、毒はなく、食用や薬用、染料として利用できます。
 
   
            ヤマシャクヤクの種子                          ヤマシャクヤクの花(5月)
ヤマシャクヤク:白い花からは想像もつかない赤い種子。赤は結実していない部分で、黒が結実した部分。名前にシャクヤクが入っていますが薬効はなく、山に生えシャクヤクに似ているところが由来のようです。
 
   
             クマシデの花穂                           トチノキの実(栃の実)
 クマシデ:ホップのように見えますが、こちらは倍くらいの大きさ。残念ながら香りはないです。
 トチノキ:おいしそうに見えますが、苦みが強く、食用にするには、時間と労力をかけてあく抜きしなければなりません。世界で、あく抜きをして栃の実を食べるのは、日本人だけだと言われています。縄文時代は主食だったといわれていますが、その後の時代でも非常用の食糧として、屋根裏などに蓄えられてきた歴史があります。
 
どうでしたでしょうか?珍しい植物はありませんが、ゆっくり歩くといろいろ発見があって楽しいものです。みなさんも、身近な小さい秋を探しに出かけてはいかがでしょうか。
 
※洞爺湖遊覧船は通年営業していますが、中島に下船できる期間は、4月下旬から10月末となっています。。