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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

「外来種なウチダザリガニ ~ 阿寒湖 PV 防除活動から ~」

2025年09月07日
阿寒湖 熊野直紀
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曰ク
此処阿寒湖事務所では
ウチダザリガニによる在来種への食害をできる限り防除するため
本活動を通じて調査駆除を歴代行ってきた…
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「響き」って大事。
この活動イベントを通して、改めて思い直す。

 日本出身のような語感をしているけれど、「ウチダザリガニ」は日系ですらない。
名前がウチダさんなのがJAPANっぽい感じを出しつつも、ウチダザリガニ は アメリカザリガニ と同じくアメリカ大陸の出身。
つまり日本においては外来種とされるザリガニたちで、そのように思われにくいのが難点な気がする。

 日本人研究者が由来の(和名)ウチダザリガニさんだが、英語圏ではハサミの淵が白いという特徴から“Signal crayfish”と呼ばれているらしい。
“シグナルクレイフィッシュ”なら勘違いはなさそうだが、なんとなく呼びづらいのはたしかだ。
ウチダザリガニの防除ということで、
活動前にまず 大前提 を記しておくと、無許可での捕獲や個体の移動は絶対に厳禁である
 
ウチダザリガニは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(*」によって指定(2006年)を受けている「特定外来生物」となり、
加えて阿寒湖および周辺では漁業組合の「漁業権」も存在している。


(*)特定外来生物は、飼育・栽培・保管・運搬・販売・譲渡・輸入・野外に放つこと等は原則として禁止。上記の項目に違反した場合、個人の場合3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の場合1億円以下の罰金が最高で科されます
( - 今回は北海道漁業調整規則に基づく許可を受け、環境省の防除事業の一環として実施した - )



本件の阿寒湖ウチダザリガニは、既に定着していた摩周湖から人為的に持ち込まれたことによる流入。
そしてここ、阿寒湖(アカムトー)は川の上流において パンケトー と繋がっており、その河川内では希少種であるカワシンジュガイ等、パンケトーでは希少性の高い水草群落等の捕食が確認される。

諸々書き出すときりがなくなるので控えるが、外来生物の存在が引き起こす悪影響については次の3点にまとめられている。
・1, 日本固有の生態系への影響
・2, 人の生命・身体への影響
・3, 農林水産業への影響
 
悪影響とは言うけれども、
勿論運ばれてきてしまっただけのウチダザリガニに非があるわけではない…ので、
申し訳なさを共にしつつこの子たちを捕獲していった。

事前準備

イベント当日に向けて、我々は捕獲罠を仕掛けに向かう準備から始まっている。
 
捕獲罠を設置するのは、イベシベツ川(乙女の滝・パンケトー流出部)、パンケトー(一ノ沢)の3地点(*)。
(※周辺の道路と森は、国や前田一歩園財団のもとで厳重に管理されているため一般は許可なく立ち入ることができない場所になる。今回は前田一歩園財団に入林申請を提出している。)
【国土地理院より】

捕獲にあたっては阿寒湖の自然環境に配慮するため、罠のエサも阿寒湖のものにこだわった。

誘因餌ケースには阿寒湖産のアメマスと、現地で処理したウチダザリガニを投入している。
 
捕獲罠の流出を防ぐため重石を入れ、浮きの目印とロープで括る。

明日はどれくらい捕獲できるだろうか。

活動当日

当日は幸い、晴天で迎えることができた。

あいにく参加人数は例年より少なかったものの、心強いメンバーが集まり現地に向かう。
我々事務局は捕獲されていくウチダザリガニをバケツに集約しつつ、

陸地より全体を眺めながら各地点でタイムスケジュールを注視して進めていった。
 
正直なところ、捕獲罠については大量のカゴもあれば一匹も入っていないカゴも中にはあり、
当日になってから不良有のカゴに気が付いた(返し網がユルユル)、という事故もあった…。
 
検品の甘さを自覚し反省する我々。
この失敗は次年度以降に活かすことにする。
 
そのような中ではあったが、
手慣れたPVさんも多いおかげで手作業でも次々捕獲していけたのはありがたかった。
 
そして作業を終わりにして引き揚げる、
タイムアップだ、
帰りも道のりは長い。
 
長い林道を抜けてビジターセンターに戻り、

捕獲した全個体の雌雄判別や電子ノギスでの計測作業を行う。
 
左がオス、右がメスである。
雌雄の違いを参加者と改めて確認する。

 
計測が完了したら、最後は協力して全個体の処理を行った(心を鬼にして感謝しながら)。

参加PV(パークボランティア)のみなさま、本日もご協力ありがとうございました。
おつかれさまでした。

反省会を経てザリガニを想う

ザリさん…。
 学生の頃、胴長を履いて日本在来種であるニホンザリガニ(Cambaroides japonicus)調査を手伝ったことが懐かしく思われつつ、ザリガニの記憶をもっと遡ると小学校の教室で水槽にいたアメリカザリガニが最初の出会いだろうか。
 初めての出会いからして外来種なわけだけれど、経験としては珍しくないはずで、そもそもニホンザリガニは生息域が北日本(秋田県北部・岩手県北部・青森県・北海道)に限られている。
 東北以南では基本的に身近な存在になりえないわけで、むしろ在来種の二ホンザリガニに触れたことのある人の方が割合少なそうなことが容易に想像できてしまう。
 
 日本で広くイメージされているザリガニ(動物界)はおそらく外国出身、という事実になんだか不思議な感じがしてくるけれど、
では「普段食べられているお野菜(植物界)とかの日本原産てどれくらい?」とか脳裏を掠めてしまうと、
なんとなく知っているのでまた違った感情や思索も生まれてきたりする。
 
 そんな云々まで思考が流れてしまうのは、本日主役のウチダザリガニは「食糧難解決策」の一環として1920年代に日本各地に導入された経緯があるからだ(北米/太平洋側北部のコロンビア川水系、ミズーリ川源流部が原産らしい)。
 
 ここ北海道では1930年に摩周湖に持ち込まれたのが最初、以後生息は全道に拡大している(阿寒湖での定着確認は1980年代前半だそうだ)。
 「食糧難解決策」というだけあって、
<ザリガニの中では食用価値が高い>と評価されているのがウチダザリガニなのだろうけど、まぁなにより体がでかい
(体長15cm程にまで成長、寿命は10年くらい、雑食性なので魚類・エビ・水生昆虫・水草や藻類などを食べて育つ)。
大きいということは可食部が多いということなので、それだけでも重宝されそうなのはもっともな気がする。
 
 現在の日本では一般的ではないけれども、ザリガニは各国で食材として扱われており、フランスではロブスターと並ぶ食材として高級に料理されている、らしい。所変われば品変わる、ということだろうか。
 
 そう呟かれていると、私ちょっとザリガニ食べてみたいかも。。。という方は、阿寒湖の漁協ではボイルしたウチダザリガニも購入できるので、HP等ご確認いただくのもよいかと思う。ホテル等に卸されているザリガニさんだ。
Cf.)阿寒湖漁業協同組合 – 北海道_水産林務部_森林海洋環境局成長産業課
 
そんな私はというと、せっかくなら食べてみたくなる質なので、
一応 調理師として 野良料理 を試みるに至った(阿寒湖温泉住なので漁協も徒歩圏内だ)。
ウチダザリガニ様の感想は、
甲殻類なので当然なれど出汁も含めておいしくいただけた。
 
命たちにありがとう。

日本のザリガニ

 と、ここまで辿ってきて行き着くのは、
「そうするとだよ、外来種が導入される以前のザリガニってどういう存在だったのだろうか」という疑問になる。
つまり「ニホンザリガニ」しかいない頃のザリガニさんの立場である。
 
 気になって少し調べてみると、北海道ではいくつかアイヌ語の呼び名が記録に残っている。
語源的にわかっているものでは “ホルカレイエプ「後に這うもの」(沙流川筋・千歳市周辺)/ホルカアムシペ「後ずさりするカニ」(石狩川筋)/テクンペコルカムイ「手袋を持っている神」(名寄市・旭川市・幕別町・釧路市周辺)” というのがあるらしい。
 
 カムイの付く名前もあった、こちら東側のエリアだ。そういえば休日お出かけ中、美幌博物館でザリガニっぽい意匠が彫られたイクパスイ(捧酒箸)を見かけたことがあった、いつか詳しい人にお話を伺ってみたい。
 またここ阿寒摩周の辺りだと、屈斜路湖ではザリガニが魚をとる網にかかってしまっても祭祀用の小さなイナウ(木幣)を背負わして湖に戻していたという記録も残っていて、もともと食用でもなかったっぽい。
 ぽいのだけれども状況は幕末の頃には変わったようで、西洋医学が入って来てザリガニの胃石(オクリカンキリ)を薬として利用するようになってからは、捕獲の対象にもなっていったとのことだ。
 
 なるほど。ニホンザリガニは松前藩から幕府へと献上されていたらしいし、宮内庁にも献上の記録が残っていて、大正天皇の即位式には支笏湖産ニホンザリガニのクリームポタージュ(蝲蛄濁羹)が提供されたとのことだ。
 いろんな時代を経て、我々の生きる現代がある。
僕たちには何ができるだろう。

夕日が沈む前に

 どうだろう、あなたも少しは「ザリガニさん気になる仲間」になっていただけただろうか。
もう一寸知りたくなってしまったそこのあなた、最初の入口として以下のページにアクセスしてもらえればと思う。

Cf.)外来ザリガニ類(ウチダザリガニ・アメリカザリガニ) 北海道環境生活部自然環境局

日本で生息するザリガニや外来種問題にちょっと詳しくなれてしまうはずだ。
想定外の長文になってしまった。
長々とザリガ日記を書いていたら、
段々とウチダザリガニが釧路の夕焼けに見えてきた。。。
 
日が暮れる前にそろそろ切り上げることにしたい。
 
外来生物とのお付き合い、
みんなで考えていきましょう。
 

阿寒湖事務所 熊野