
アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
知床という場所
2026年03月24日
ウトロ
私は知床で2年間過ごした。
そして今年、東京へ転職する。
こんな私の知床で感じたどうでもいいことを、ここに記したくなった。
なんとなく抱く、北海道へのあこがれ。
この気持ち、道外出身の方ならだいたい共感してもらえるのではないだろうか。
そんな私も東京生まれ。
もともと自然に囲まれるのが性に合う人間なもので、北海道で働きたいと学生の頃から思うことが常々あった。
東京の専門学校に通い、ついには新社会人として、知床への移住が叶う。
職はアクティブレンジャー。
アクティブレンジャーが配置される自然保護官事務所は全国に数多くあるが、
知床国立公園のアクティブレンジャーはかなり特別な、いや、特殊な体験が出来る公園なのは間違いないだろう。
特に、公園内におけるヒグマパトロールがそれにあたる。
ニュースでも大々的に取り上げられたが、2025年8月に羅臼岳でヒグマによる人身事故が発生した。
その羅臼岳がそびえ立つのは、ここ知床国立公園。
この事故の直接的な原因は未だ不明となっているが、カメラマンや観光客によるヒグマの人馴れも背景の一つとして挙げられている。
この事故を受けてから、ウトロ自然保護官事務所ではヒグマが活発な春から秋にかけてパトロールを行っている。
特に重点地域として目を光らせているのが、岩尾別川(または岩尾別地区)だ。
昨年の夏のこと、私が知床へ来てから初めてパトロール中に野生のヒグマを見た。
その時は車内から発見し、他の観光客が餌付けや撮影による接近を防ぐため、近くでヒグマがいなくなるまで待機しているのだが、強い違和感をもった。
なぜかヒグマがこちらへ近づいてくるのだ。
今なら分かるが、これが人に慣れてしまったヒグマなのだ。
岩尾別川沿いから河口にかけて、鮭が産卵のため遡上をするのだが、クマはそれを狙いにやってくる。
今度はヒグマを狙うカメラマンや観光客達が、食事中のヒグマへ配慮などお構いなしにやってくる。
ヒグマは本来人間を避けるのだが、不必要にたくさんの人間がヒグマに近づくと、人間は害がないと見做し、避けることをやめてしまう。
すると人間もヒグマは近づいても危険ではないと錯覚し、必要以上に近づいてしまうという悪循環が発生しているのが現状だ。
人身事故という悲しいニュースで知名度が更に上がった知床だが、そこでヒグマと人間のために働きかけることが出来ることに、とてもやりがいを感じている。
巡視や調査も印象深い。
遠音別岳原生自然環境保全地域への巡視や知床連山縦走、シレトコスミレの調査なんかも驚きの連続であった。
人生で初めて踏み入る原生自然環境保全地域。
長い時間をかけて天然更新を繰り返してきた複層林を目の当たりにしたときは、本来の地球の姿の一部を見た気がした。
連山縦走路の巡視やスミレ調査で知床連山を登った際には、圧倒的な景観と高山植物たちに心を打たれた。もはや好きにならずにはいられなかった。
今では登山装備に拘ってしまうほどだし、山頂付近で高山植物に出会えば這いつくばりながら写真撮影するざまだ。
思えばどれも過酷な巡視が多かったが、現在この身についている体力、フィールドにおける技術や知識たちは、私にとってかけがえのない知床からの贈り物といえる。
ヒグマ含め、知床半島における野生動物の多様性は言わずもがな、国立公園内を車で少し走らせるだけで驚くほど体感することができる。
国道沿いにはエゾシカの親子、寒空を見上げればオオワシとオジロワシが旋回中。
森に入ればエゾリスにエゾモモンガ、エゾフクロウとの出会いも珍しいことではない。海岸からトドやアザラシ、クジラを眺めることもできる。
こんなときによく使われがちな表現をあえて使わせてもらうが、知床のような圧倒的な自然の中に身を置くと、人間のちっぽけさが本当によく分かる。
同時に、そのちっぽけな人間が自然に与える影響がいかに大きいかよく分かるのだ。
この影響というのは良くも悪くもだが、アクティブレンジャーという仕事上どうしても悪影響の気づきが多い。
頑張って積み上げたジェンガを一瞬で倒すように、長い時間をかけて自然が作り上げたものを、人間は瞬く間に壊すことが出来てしまう。
だが皮肉にも、自然の力だけでは不可能な回復も、人間の活動が介入することで可能なものにある。
当然全てではないが。
プライベートにおいてはひたすらに遊んでいたと振り返る。
山に登り、野鳥撮影にのめり込み、釣りにも手を出してみたりした。
特にシーカヤックとの出会いは私の休日を遥かに豊かなものにしてくれた。
世界的にも珍しい世界自然遺産エリアに含まれる知床の海を青空の下、シーカヤックで断崖の真下ぎりぎりをこぎ進む。
今までマリンアクティビティに触れることがあまりなかったのだが、広大なオホーツク海で両手にパドルを握り、不安定な船を操る感覚がなんとも面白い。
それに冬になれば流氷カヤックだ。もはや別のアクティビティへと変化する。
全く想像できない人が多いと思うが、是非知床でシーカヤックを体験してみてほしい。
ガイドさんが言うには、国内のシーカヤックツアーでは最長のコース距離とのこと。
今では自分用にカヤックの購入も検討している。
いうなればどハマりしたのだ。
あとはさすが北海道、食べ物がひたすらに美味しい。
太るのはしょうがないと言い聞かせた2年間であった。
こんな感じで私の知床生活は充実感にあふれ、かけがえのないものとなった。
とても自由に書いてしまったが、アクティブレンジャー日記とはこんなに自由な内容でよいのだろうか。
4月からは再び東京生活となる。
また、知床に来よう。









※人とヒグマのより良い関係のために、ヒグマとは一定の距離を保つようお願いします。
※知床国立公園での、ヒグマへの著しい接近、近距離でのつきまとい、餌やりは禁止されています。
〇ヒグマ規制について|知床世界遺産センター
〇知床を訪れる方へ|知床のひぐま