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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

『ボッケの森をネットで護ろう』を終えて・・・

2006年12月21日
阿寒湖
 12月10日(日)に行われた(財)前田一歩園財団及び阿寒湖畔エコミュージアムセンター運営推進協議会主催の自然ふれあい行事『ボッケの森をネットで護ろう』は、昨年に引き続き今回が2回目になります。
 今回の行事を実施するにあたり、調査の実施、スライド報告会、ネットの資材提供などの面で、(財)前田一歩園財団、釧路森づくりセンターに多大な御協力をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

 今回の行事『ボッケの森をネットで護ろう』では、越冬期のエゾシカによる樹皮食害を少しでもくいとめ、また将来の母樹となる木を残すために、木にプラスチックネットを巻いて森の生態を護ろうという目的でいくつかの作業を行いました。

 午前10時に阿寒湖畔エコミュージアムセンターに集合・受付を行い、10時半よりスライド報告会を行いました。
 報告会では、?「阿寒の森のはたらき」について釧路森づくりセンターより、?「阿寒のシカの生態」では、阿寒湖畔でこれまでに行われてきたエゾシカ対策を含めエゾシカの生態について、阿寒湖自然保護官事務所アクティブレンジャーこと私(福井)より、そして?「平成18年度ボッケの森 被害木調査報告」では、被害の現状を知っていただくため、本年度ボッケの森で実施した被害木調査の報告を(財)自然公園財団スタッフにより報告を行いました。

 平成18年度9月~12月にかけて行った?の「被害木調査」では、森の中に「どんな木が・どれくらいあるのか」を1本1本把握すること、木に被害があるかないかを調べ「被害率」を把握すること、そして「被害率」から危機的な状況にある木を把握し、その結果を踏まえネットを巻く木を選定することを目的としました。
 調査区(全部で13区画)は、昨年度の調査区の残りの7区画(計24105?)で、そのうちの3区画(区画5、区画6、区画11)を、ネット巻き作業を行う対象区画としました。

 今年度の毎木調査の結果(7区画分)、小径木に被害が集中していたシウリザクラ(被害率42.5%)、小径?大径の木までまんべんなく被害を受け、近い将来危機的な状況になるとされるオヒョウニレ(64.2%)、そして、最も危機的な状態のイチイ(被害率82.6%)の3樹種の被害率が極めて高いという結果となりました。

 そして、今回3区画を選び、その中から合計146本の木をネット巻き対象として選定しました。

 今回の行事の参加者は、12名、スタッフ20名(パークボランティア7名、釧路森づくりセンター5名、(財)前田一歩園財団3名、支庁林務課1名、(財)自然公園財団3名、環境省阿寒湖自然保護官事務所1名)の計32名でした。
 ネット巻き作業は、13時?14時半とし、2つのグループに分かれ、ネットを運ぶ作業、ネットを切る作業、ネットを木に巻く作業と、2、3人ごとに役割分担をし、それぞれの作業を交代しながら行いました。
 作業開始直後は、作業の段取りに慣れるのにしばらく時間を要している様子でしたが、次第にネットを巻く本数が増すうちに、参加者の表情にもゆとりが見え始めてきました。そして最後には、「もっとネットを巻きたい」、「おもしろかった」という声が聞かれました。

 私は巡視業務で白湯山展望台という場所へよく訪れることがあります。その場所から眺める阿寒の風景が私は大好きです。その場所に立つだけで、雄阿寒岳、雌阿寒岳とともに阿寒湖と阿寒湖畔の森一帯を眺められるとても美しい景観に出会うことができるからです。
 しかし、ボッケの森に一度入ると、実際多くの木々がエゾシカによる被害を受け病んでいる状況を目の当たりにします。エゾシカが阿寒の森の生態に与える影響はとても大きく、とても見て見ぬふりはできないほど見た目よりもその被害というのはとても深刻なものです。

 エゾシカによる「樹皮はぎ」は、冬場の餌不足によりおこるもので、自然の摂理でもあります。しかし近年、エゾシカの個体数が増加し、それに比例して樹皮食害が深刻化している背景には、農地造成(本来のエゾシカの生息地が減少する)やエゾオオカミなどの天敵の絶滅、ハンターの高齢化などの人為的要因により、好適な環境(森)にエゾシカを集中(自然的要因もある)させてしまったのではないかということも指摘されています。

 阿寒の森は、エゾシカにとっても、野鳥やエゾリスなどの他の野生生物にとっても生存する上でなくてはならない貴重な宝物です。そして、私たち人間も、心と体を癒してくれるという恩恵を阿寒の森から受けています。

 今回の行事『ボッケの森をネットで護ろう』を終えて、私を含め、今回参加された方々、個人個人が阿寒の森の実態を知り、森の生態の深さを感じることで、森やエゾシカとの関わり方や自然環境に対して何ができるかを考えるきっかけになればと思います。そしてそれが、森とシカと人が共生する社会への一歩につながることを願っています。



ボッケの森の被害木調査の様子(阿寒湖自然保護官事務所アクティブレンジャー)


ボッケの森概略図及び調査範囲 (財)自然公園財団阿寒湖支部提供


エゾシカによる樹皮食害を防止するためのネット巻き作業の様子(平成18年12月10日)