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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

羊蹄山でコマクサの除去を行いました

2023年07月20日
洞爺湖 荻原 沙理
こんにちは。洞爺湖管理官事務所アクティブレンジャーの荻原沙理です。
今日は、羊蹄山で行ったコマクサ除去の様子をお伝えします。

羊蹄山って?

羊蹄山は、山々が連なっている「連峰」と異なり、一つの山のみで形成されている「独立峰」で、富士山に似た美しい姿から「蝦夷富士」とも呼ばれています。支笏洞爺国立公園の一部で、日本百名山の一つです。スキーやスノーボードリゾートで有名なニセコの東側に位置しています。
 
※過去に撮影

環境省_支笏洞爺国立公園_見どころガイド (env.go.jp)

高山植物が見ごろとなる7月上旬から8月上旬には、標高1,700m以上で100種類以上の高山植物が花を咲かせます。
羊蹄山のお花 | 羊蹄山情報 | 観光 | 倶知安町 (town.kutchan.hokkaido.jp)

倶知安ルート、真狩ルート、京極ルート、喜茂別ルートの4つの登山ルートがあり、いずれのルートも山頂まで4時間以上を要します。
yoteitozancoursemap.pdf (town.kutchan.hokkaido.jp)

今回は倶知安ルートから登山しました。

コマクサって?

コマクサはほかの植物が生育できない過酷な環境でもきれいな花を咲かせることから「高山植物の女王」と呼ばれています。

本来の自生地では手厚く保護すべき植物ですが、もともと羊蹄山や同じく支笏洞爺国立公園内の樽前山には自生していませんでした。しかし、人為的に種子が持ち込まれたことにより、移入・定着するようになりました。人為的な移入が本来の生物分布を変えてしまう恐れがあることから、羊蹄山や樽前山では、「コマクサの除去」が行われています。
今回の改正に至った背景 | 自然環境・生物多様性 | 環境省 (env.go.jp)

なお、国立公園内でコマクサのような国内外来種を含め、植物を損傷(切り取る、傷つける)、採取(根っこごと取る)する場合には、事前の許可を要する場合がありますので、ご注意ください。

除去の様子

今回は倶知安風土館、ニセコ羊蹄山岳会主催のコマクサ除去に環境省として参加させていただきました。今年が13年目の実施とあり、毎年の除去のおかげで、近年は発見されるコマクサの株は減っているそうです。「コマクサの生育がゼロであること」を確認することを目標に出発しました。

早朝5時半ごろに登山口を出発し、過去にコマクサが発見されている9合目付近のポイントを目指しました。

5合目手前ではニセコアンヌプリの山頂が雲の上に姿を現している様子を見ることができました。

9合目までもうひと踏ん張りです。



今回登山道で見られた花々です。標高が上がっていくとみられる草木、花々がどんどん変化します。

9合目に到着し、いよいよコマクサ除去作業を開始します。
2つのグループに分かれて過去にコマクサが発見されたポイントを確認しに行きました。事前に共有していただいたコマクサの写真や標本を頭に思い浮かべて、捜索開始です。
 
私が参加したグループは9合目から少し離れた外輪山、北山付近で捜索を行いました。


コマクサの生育はゼロであってほしいけど、見落とすことがないようにしなければいけない… 複雑な気持ちで目を凝らします。
 
コマクサは岩や石の他の植物が生育できない場所を好みます。
他の植物の群生地の外側、ハイマツの下を重点的にチェックしていきます。

外輪山の鉢の中に有花茎(ゆうかけい:花をつけた茎がある個体)がないか、双眼鏡やカメラの望遠機能を使って確認しました。

結果、確認されたコマクサはありませんでした。ただ、本当に存在しなかったのか、見落としてしまっただけなのか、不安が残ります。「ないことを証明するのは何より難しい」と感じました。
 

一方、伊藤Rが参加したグループは、9合目付近の斜面を捜索しました。

イワブクロ(別名タルマイソウ:樽前山を代表する花)の隙間にある青みがかった緑の小さな植物が、今回探していたコマクサです。つぼみがついているのが見えますか。

次の写真は、花をつけていない株です。手のひらの大きさと比較すると、いかに小さいかがお分かりいただけるのではないでしょうか。花をつけていない無花茎は、小さく目立ちにくいため、探し出すのは至難の業です。

花をつけた「有花茎」も見つかりました。

見つかった株は移植ゴテを使って、根っこを残さないように丁寧に掘り起こします。

今回見つかったコマクサは10株で、すべて除去を行いました。残念ながらコマクサの生育はゼロではなかったものの、確実に除去の効果が表れていることが確認できました。「来年こそは…」という思いを胸に、作業を終えて下山しました。
 
意図的にそこに存在しない種を持ち込む以外にも、登山の装備品などに種子がついたまま、気付かないうちに持ち込んでしまうこともあり得ます。特に登山靴は一般的な靴に比べて溝が深く、ものが挟まりやすい構造です。
入山前に、下山後に、ご自身の装備品を点検して、種子がついている恐れのある土や泥などを落としていただくよう、ご協力お願いいたします。