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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

「歩くからこそ知れること!」

2024年02月05日
阿寒湖 森竹祐
こんにちは!阿寒湖管理官事務所の森竹です。
 
1月中旬に、阿寒湖畔エコミュージアムセンター主催の自然観察会の下見でヒョウタン沼周辺の森を歩いてきました。
 ※ヒョウタン沼周辺の森は、私有地であり立ち入るには許可が必要なエリアです。自然観察会は下見も含めて許可を得た上で実施しています。
 
昨冬も同時期に歩いたのですが、今冬は斜面のササが顔を出しており、昨年に比べて雪が少ないことを実感しました。
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斜面に積もった雪の下から顔を出していたササ (※昨冬は完全に雪に覆われていました)
斜面を登っていると、前方の木の上部にコゲラがいるのを見つけました。
コゲラは道内では1年を通して暮らしており、日本に生息するキツツキ類の中では最小です。
同じキツツキ類のアカゲラやクマゲラに比べると、目立たない地味な姿と鳴き声ですが、
「ギィー、ギィー」という低い鳴き声は、姿を見つける大きな手がかりにもなります。
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近くの木を駆け上がっていた「コゲラ」
この森では、高密度のアカエゾマツ林が見られます。
火山の噴火後、酸性になった土壌は、多くの植物にとって生育しにくい厳しい環境なのですが、アカエゾマツはその酸性土壌でも育つことができます。
アカエゾマツが育つことで土壌が中性化され、やがて多くの植物が生育できるようになります。
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見渡す限りのアカエゾマツの森
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そんなアカエゾマツ林を歩いていると、1本のアカエゾマツの下に動物が座り込んだ真新しい跡がありました(下の左写真)。
じつはこれ、エゾシカの寝床跡です!この樹の下には、3頭分の跡がありました。
前夜から今朝にかけて休んでいたようです。同行した方が、遠くでこちらを気にしている個体を見つけていました。
 
下の右写真は、1つの寝床跡を撮影したものですが、左に糞が見られることから右を正面にして座っていたことがわかります。
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道民なら誰もが知っている野生動物が寝床として利用した跡
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左に大量の糞が見られた3頭のうちの1頭の寝床
寝床跡を後にしてからも、至る所でエゾシカの痕跡を見ました。
林を抜けた開けた雪原には、エゾシカの疾走跡がありました。
スケールがわかるように手袋を置いて撮影してみましたが、1回の跳躍で2mほど飛んでいました。
さすが野生動物と言わんばかりの豪快な跳躍力です。
 
積雪期にエゾシカの寝床跡や疾走跡を見たのは初めてでしたが、冬はこのような野生動物の痕跡を発見しやすいため、
森を散策される際はぜひ気にして歩いてみてください!
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アカエゾマツの森から一直線に続いていたシカ道の痕跡
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エゾシカの疾走跡 ~恐るべし跳躍力!~
辿り着いた送電線エリアからは、この地の歴史を感じることもできます。
正面奥に見える彼方の山(赤丸)は、松浦武四郎が実際に歩いたルートだったと言われています。
今は森が広がっていますが、松浦武四郎が歩いた当時は一面がササ原だったようです。
その後、前田一歩園財団により植林活動が進められ、今のような広大な森ができたとのことでした。
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ヒョウタン沼より西の斜面から国道240号方向を見た景色~正面奥に見える山(赤丸)を松浦武四郎が歩いたといわれています
この景色を見ている最中、上空に1羽のオオワシが現れました。優雅に旋回し、少しの間私たちを楽しませてくれました。
前日には、ボッケ遊歩道でも上空を旋回するオオワシの若鳥2羽を確認しました。
昨冬は阿寒湖周辺であまり見かけませんでしたが、今冬は1月中旬時点で3羽も確認できているので当たり年なのかもしれません。
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上空を優雅に飛んでいた冬鳥の「オオワシ」
ヒョウタン沼を目指してさらに進んでいきます。
スノーシューで新雪を踏みしめる感覚は、冬の森歩きならではです。
ここからは、樹木にスポットを当ててみます。
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暖かな陽が差し込む林内

シナノキ

まずは、シナノキです。
阿寒の森では、大木を見かける機会が圧倒的に多い種類です。
 樹木に詳しい同行者の方曰く、シナノキはミズナラより成長が早く、樹の中が腐れやすいという特徴があるとのこと。
 
ボッケ遊歩道でも見られますが、いずれも中が下から上まできれいに空洞化しています。この状態でも、台風などの強風に耐えられるのがすごいです。
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中が空洞化する「シナノキ」

オヒョウ

続いては、エゾシカに幹回りの樹皮をきれいに剥がされたオヒョウです。
オヒョウの樹皮は剥がしやすいため、アイヌの方々が衣服(樹皮衣)を作るのに使っていた歴史があり、
阿寒の森ではエゾシカが好んで食べています。
 
幹回りの樹皮を剥がされてしまうと、樹木は水分を吸収できなくなり、枯死してしまいます。
エゾシカの食害により、阿寒の森のオヒョウの数は昔に比べて確実に減っていると教えてもらいました。
また、枯死したオヒョウには、食べられるキノコとして有名な「タモギタケ」が群生しやすいようです。
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樹皮をきれいに剝がされた「オヒョウ」  
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きれいに食べられている根元の樹皮
エゾシカはオヒョウの根元に蹄や角などで傷をつけ、そこから上に向かって樹皮を食べていく傾向があるとのこと。
樹皮がむき出しになり傷ついた部分から腐朽菌が入り込み、木の内部が腐っていき、そこにやってきた昆虫を食べに
ヒグマがやってくることもあるとのことでした(主に根の辺りの土壌を掘り起こして昆虫を食べるようです)。
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剥がれた樹皮の比較(左:オヒョウ、右:トドマツ)
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剥がれた樹皮をオヒョウの隣にあったトドマツと比較してみると、オヒョウのほうが剥がれやすいのが一目瞭然でわかりました。
右のトドマツの樹皮は硬く、明らかに剥がしづらそうでした。
オヒョウの樹皮は、横ではなく縦方向についているので、それがエゾシカにとっても剥がしやすい理由の1つにもなっているのかもしれません。

ヒョウタン沼

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一面が新雪に覆われたヒョウタン沼
出発から2時間ほどでヒョウタン沼に到着しました。
きれいな一面の雪景色が広がっています。
 
名付けられた当時は「ひょうたんの形に似ていた」ことからヒョウタン沼と呼ばれるようになったとのことでした。

結氷した氷がどれくらい厚いかを調べるべく、氷を切り出してみました。
昨年の1月にも同じことをやりましたが、今年は明らかに雪が少ないので、
「1年前よりも氷の厚さは薄いのではないか?」と予想したのですが、実際その通りでした。
 厚さは何十cmくらいに見えるでしょうか?
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ヒョウタン沼から切り出した氷
実際に計測したところ、26cm(昨冬の1月中旬は54cm)でした。
ここまでの道中でも雪の少なさははっきりしていましたが、沼でも雪が少ないことによる影響は顕著に出ているようでした。
 
淡水湖では、結氷前と結氷後に降雪があると氷は厚くなりやすくなるようです。
※結氷前:雪が湖の水温低下に貢献し、結氷が進みやすくなる。
 結氷後:結氷した氷の上に積もった雪が氷の厚みを増す。
 
これを踏まえると、今冬は降雪が少ないため、氷が26cm(昨年の約半分)の厚さにしか達しておらず、
昨冬は比較的降雪があったため、氷が54cmの厚さに達していたとも考えられます。
降雪が少ないと結氷する氷の厚さも薄くなるということが改めてわかりました。
代替テキスト#代替テキスト
ヒョウタン沼から見える雄阿寒岳
ヒョウタン沼を後にしようとしたとき、それまで雲に覆われて見えなかった雄阿寒岳が顔を出しました。
雄阿寒岳は様々な角度から見られますが、個人的にはここから見る雄阿寒岳の姿も気に入っています。
 
今回の現地確認は、雪の少なさやエゾシカの様々な痕跡、冬の森や沼の結氷状況などがわかり、
とても有意義な時間になりました。
 
みなさんも阿寒湖エリアを訪れた際には、冬の森を散策できるボッケ遊歩道や森のこみちを歩いて
野生動物の足跡などを探してみてください!
(散策する前に、隣接する阿寒湖畔エコミュージアムセンターで情報収集をしてみるのがオススメです)
 
実際に歩くからこそ知れることがきっとあるはずです!