ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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利尻礼文サロベツ国立公園 稚内

268件の記事があります。

2013年10月31日花の季節は終わっても…

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 礼文島では現在紅葉が見ごろを迎えています。紅葉と言うと木々が真っ赤に染まる光景をイメージされるかもしれませんが、礼文島の紅葉は一面真っ赤には染まらず、樹種によって色が異なるのが特徴です。礼文島に生育する樹種のうち、赤く染まるのはナナカマド(バラ科)・ヤマブドウ(ブドウ科)・ツタウルシ(ウルシ科)など、黄色く染まるのはイタヤカエデ(カエデ科)・ダケカンバ(カバノキ科)、オノエヤナギ(ヤナギ科)などでそれに常緑樹であるトドマツなどのマツ科の緑が合わさってパッチワーク状の色彩が見られます。(ただし、マツ科の中でもカラマツやグイマツは落葉樹で黄色く紅葉します)


礼文島の紅葉(10/23 元地香深線)

 また、礼文島の秋は好天に恵まれる日が多いことに加え、空気が澄んでいるのが特徴です。夏は霧の日が多かったり、晴れていても霞がかっていたりして視界が悪い日も多いですが、空気の澄んでいる秋は視界がクリアになり、西海岸の雄大な海食崖地形を観賞しやすくなります。
 夏はどうしても目の前の高山植物に目を奪われがちですが、秋は逆に遠くの景色に目を奪われます。礼文島は周囲72kmほどの小さな島ですが、海食崖地形が続く西側の海岸線には圧倒的なスケール感があります。また、東側に目を向けると山頂付近に薄く雪化粧をした利尻山を望むことができ、さらに海の向こうのサハリンを望める日も多くあります。     
 そのような景色が望める秋は歩道散策にはうってつけの季節です。青い空と海、そして澄みきったきれいな空気の中での散策は非常に気持ちがよく、花の季節とは一味違った魅力があります。


通称ツバメ山から西海岸を望む(10/23 桃岩歩道)

 「花の島」のイメージが強い礼文島ですが、花の季節は終わっても、紅葉や美しい景色など花以外の魅力を発見できること、それこそが秋の礼文島散策の醍醐味だと思います。


ゴロタ岬と夕日(10/23 ゴロタ浜)

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2013年10月15日礼文島花シーズン2013

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 現在礼文島では花シーズンの最後を飾るレブンイワレンゲ(ベンケイソウ科)が見ごろを迎えています。まだ雪の残る4月にフキノトウ(キク科)やミズバショウ(サトイモ科)が開花してから半年、花シーズンはあっという間に過ぎ去って行った気がしますが、今年は私が今まで経験したことがないほどたくさんの花が咲き、季節ごとに移り変わるお花畑を彩ってくれました。
 今年はほとんどの種で例年と比べて同等かそれ以上の個体数を確認できましたが、その中でも以下の8種は特に印象に残りました。

○エゾノハクサンイチゲ(キンポウゲ科)
 昨年はあまり元気がなかったように感じましたが、今年はそれを取り返すかのように咲き、6月の桃岩歩道を白く染めるほどでした。

○エゾヒメアマナ(ユリ科)
 同時期に咲く同じユリ科のキバナノアマナと似ていることに加え、葉も花も小さく目立たないため見つけづらい花ですが、よく目を凝らすと5~6月の桃岩歩道で今までに見たことがないほどたくさん咲いていました。

○サクラソウモドキ(サクラソウ科)
 うつむき加減に咲くこの花はまばらに咲いていると少し寂しそうに見えるのですが、今年はかなり多くの花を咲かせたせいか例年になく頼もしく見えました。

○バイケイソウ(ユリ科)
 今年の話題性No.1はこの花です。開花するまで十年とも数十年とも言われるこの花が今年は一斉に咲きました。バイケイソウの地域個体群は戦略としてある年に一斉に花を咲かせると言われていますが、今年は礼文島だけではなく、全道的に開花したとのことです。


上段左:エゾノハクサンイチゲ(6/1 桃岩歩道)上段右:エゾヒメアマナ(6/1 桃岩歩道)
下段左:サクラソウモドキ(6/8 8時間コース)下段右:バイケイソウ(6/14 桃岩歩道)

○レブンウスユキソウ(キク科)
 エーデルワイスの仲間で礼文島を代表する高山植物です。例年、島の広い範囲で確認できる花ですが、今年は特に礼文林道のウスユキソウ群生地で今まで見たことがないほどたくさん咲き、圧倒的な存在感を放っていました。群生地の斜面を白く染めるその様子はまさに「群生」でした。

○エゾカンゾウ(ユリ科)
 昨年同様桃岩歩道ではあまり目立ちませんでしたが、北部江戸屋山道沿いの斜面を黄色く染めるほどの群落は見事で、地元の方も今まで見たことがないと話していました。

○リシリソウ(ユリ科)
 お隣利尻島の名を冠する種ですが、利尻山ではほとんど確認することができない希少な高山植物です。また、花が小さく目立たないため、礼文島でも例年目を凝らしてよく探さないと見つけられないのですが、今年は自然に目に飛び込んでくるほどたくさん咲きました。

○ツリガネニンジン(キキョウ科)
 8月、花シーズンも終盤に差し掛かってくると、7月のカラフルな色彩から一転して白や紫の花が多くなります。私にとってツリガネニンジンは短い夏の終わりを告げる花というイメージなのですが、今年の8月、ツリガネニンジンが放っていた圧倒的な存在感は花の季節はまだまだこれからだと宣言しているかのようでした。


上段左:レブンウスユキソウ(7/10 礼文林道)上段右:エゾカンゾウ(7/6 江戸屋山道)
下段左:リシリソウ(7/18 桃岩歩道)    下段右:ツリガネニンジン(8/13 桃岩歩道)

 上記の他にも6月にたくさんの花を咲かせ、赤い彩りを添えるハクサンチドリ(ラン科)、ハクサンチドリと同じ時期に紫色の花を咲かせるミヤマオダマキ(キンポウゲ科)、7月の桃岩歩道をピンク色に染めるイブキトラノオ(タデ科)、礼文島最大級の多年草オオハナウド・エゾニュウ(ともにセリ科)は例年と同じく存在感を発揮してくれました。
 その一方でレブンソウ(マメ科)は昨年ほどの勢いがなかったようです。昨年元気に咲きすぎて今年はエネルギーを温存したのかもしれません。

 花のリレーによって季節ごとに移り変わる色彩は礼文島の魅力ですが、それに加えて年によって微妙に変化する色彩の移ろい方も大きな魅力です。今年、桃岩歩道で一面に咲くバイケイソウや江戸屋山道のエゾカンゾウの群落を見たとき、普段見慣れている場所にも関わらず、今までとは全く違った光景に見えました。それはおそらく、バイケイソウやエゾカンゾウが今まで見たことがないほど開花個体が多かったことで、その時期に咲く他の花との色彩の組み合わせが新鮮に映ったからだと思います。
 年によってたくさん咲く花があったり、咲かない花があったり、また、それぞれの種で開花時期が早かったり、遅かったり、花を観察する時の空が晴れていたり、雨が降っていたり、そういった様々な条件が重なり合った偶然の結果がその時その瞬間にしか見ることができないかけがえのない色彩を生み出しているのだと思います。


珍しい白花特集(<>内は通常の色)
上段左:ハクサンチドリ<赤紫>(6/5 礼文林道)上段右:エゾエンゴサク<紫、ピンク、青など>(5/23鉄府)
下段左:アイヌタチツボスミレ<紫>(6/3 礼文林道)下段右:ツリガネニンジン<紫>(8/14 桃岩歩道)

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2013年08月30日雨の8月

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 全国的な猛暑が伝えられる今年の夏ですが、礼文島では早くも秋の気配が漂い始めました。8月上~中旬までは夏らしい気温の日が続きましたが、8月も終わりにさしかかり、朝晩は長袖でないと肌寒いくらいになってきました。
 昨年夏の礼文島は、霧の季節6月の好天続き、天候が安定する7月の天候不順、記録的な残暑など例年にない気象が続きました。対して今年の夏は7月に好天が続いてほとんど雨が降らなかったこと、8月に入ってから天候が安定せず残暑の時期が短いこと、中旬以降肌寒い日が多くなっていることなど昨年とは全く正反対の気象が続いています。

 8月に入って雨の降る日が多くなるとともに、歩道がぬかるむことが多くなっています。特に雨の降っている時や降った直後は木階段が滑りやすくなることに加えてぬかるみや水たまりが多くなりますので、歩行の際は注意が必要です。

 雨天時に歩行する際は通気性の良いレインウエアと汚れても構わない防水性の靴などの装備をご用意ください。また、荷物が濡れるのを防ぐため、ザックカバーがあると便利です。


雨天時の桃岩歩道(8/14)

 雨天時の歩道を歩く際、皆様に必ず守っていただきたいことがあります。それはぬかるみや水たまりを避けて歩道外を歩くことでその場所に生育する植物を踏みつけてしまうことです。踏まれることで植生にダメージを与えるのはもちろんですが、一度植生が踏まれるとそこに足跡がつき、その足跡をたどって別の人が歩くようになり植生の荒廃がさらに広がってしまうのです。それはつまり、一人一人の何気ない一歩が植生荒廃の要因になり得るということです。礼文島の歩道沿いには希少種も含め多種多様な植物が生育しています。それら貴重な植物を守るため、皆様のご協力をお願いします。


青線が元の道、赤線がぬかるみを避けて植生の上を歩いたことによる新しい道
踏まれてダメージを受けた植生が元に戻るまでには長い年月が必要です
(5/23 ゴロタ岬付近)

 現在、桃岩歩道ではトリカブトの仲間リシリブシ(キンポウゲ科)が見ごろを迎えつつあります。毎年紫色のこの花が咲くと秋の訪れとともに花シーズンの終わりが近いことを感じさせます。ただ、駆け足で過ぎていった昨年の花シーズンとは異なり、今年はややゆっくりとした例年並みのペースのようです。空気は早くも秋めいてきた礼文島ですが、花の季節はまだもう少し楽しむことができそうです。


リシリブシ(8/21 桃岩歩道)

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2013年06月12日ブロッケン現象

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 先日礼文島南部の桃岩歩道を歩いていた時、不思議な現象に遭遇しました。

写真1(6/7)
高台(通称ツバメ山)からみた桃岩歩道

写真1を見ると空は雲一つない快晴ですが、西海岸に面した桃岩歩道沿いには厚い霧がかかっています。海が見えなかったことでまるで2000m級の高山にいるような光景でした。
 この写真は夕方撮影したもので、この時間太陽は桃岩歩道の西側、写真で言うと左側から当たっていることになります。そこで太陽を背に東側を向いて撮影したものが写真2です。写真2では自分の影が霧の中に映し出され、その周りに虹のような光の輪が見えています。これはブロッケン現象という大気光学現象で、太陽光があること、その太陽光を背にした観測者の前方に霧や雲があること、日の出と夕暮れの時間のように太陽光に一定の角度があることなどの条件がそろった時に観測することができる珍しい現象です。


写真2(6/7)
ブロッケン現象


写真3(6/7)
桃岩歩道から利尻山を望む

 さらに写真3ではもうひとつ面白い光景を見ることができます。礼文島とお隣の利尻島の間の海が霧で覆い隠され、白い道でつながっているように見えます。また、わかりづらいですが、写真左下にわずかながらブロッケン現象を見ることもできます。

6月の礼文島は霧の発生する日が多く、霧に巻かれて前後数メートルしか見えないということは何度もありましたが、今までブロッケン現象に遭遇したことはありませんでした。ただ、礼文島は霧が発生しやすい気候なので、よく天候を観察していれば、ブロッケン現象を見ることができる機会は意外に多いのかもしれません。皆さんも礼文島にお越しの際、明るい太陽と海から立ち上ってくる霧の組み合わせに遭遇したら、太陽を背にして目の前の霧をよく観察してみてはいかがでしょうか。太陽と霧が作り出す神秘的な光景が目の前に広がっているかもしれませんよ。

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2013年06月10日一斉外来種除去活動を行いました!

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 三枝 幸菜

利尻島にも遅い桜が咲いた5月の末に、利尻礼文サロベツ国立公園のパークボランティア(以下、PV)行事である「一斉外来種除去活動」を行いました。この行事は、利尻島、礼文島、サロベツ湿原といった離れた地域で活動するPVの方々が、同じ日に一斉に活動を行うことで、PV同士の繋がりや活動の一体感を深めることを目的に実施しています。

私は利尻地区を担当し、利尻島の南西にある南浜湿原で、PVの方5人、一般の方8人とともに、特定外来生物に指定されているオオハンゴンソウの除去作業を行いました。


PVの会 会長の小杉さんによるオオハンゴンソウについてのレクチャーの様子

芽吹き出した植物を踏まないように気をつけて、屈みながら黙々とオオハンゴンソウを抜く作業には、根気と体力が必要です。参加者の皆さんのオオハンゴンソウ除去への意欲をひしひしと感じながら皆さんと3時間ほど作業を行った結果、合計2,972本のオオハンゴンソウを抜くことができました。ちなみに、アクティブレンジャー1年目でまだまだ素人の私は苦戦してしまい、参加者の中で最も少ない除去本数という残念な結果になってしまいました。
うーん、悔しい!


オオハンゴンソウの除去作業の様子(写真提供:小杉和樹さん)

利尻島の外来種除去活動は南浜湿原のほか、島内の沼浦湿原、ポン山などの各地で長年にわたり継続して行われており、利尻礼文サロベツ国立公園PVの会の皆さんのほか、利尻島の地域に住むたくさんの人達が関わっています。


オオハンゴンソウの除去作業後の集合写真

私は利尻の外来種除去に関わるようになってまだ2ヶ月程ですが、地域ぐるみの地道な取り組みが、より大きな成果につながるように、外来種除去活動のコーディネートをこれから頑張っていきたいと思います!

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2013年06月10日礼文島初夏の花々

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 礼文島では現在初夏の花々が見ごろを迎えています。例年5月の下旬に見ごろを迎えるレブンコザクラ(サクラソウ科)やエゾノハクサンイチゲ(キンポウゲ科)は、5月に寒い日が続いたことで開花が遅れましたが、6月に入り暖かい日が多くなってきたことで一気に咲きだしました。昨年はあまり元気がなかったように思えたエゾノハクサンイチゲですが、今年は開花が遅れたものの、現在それを取り返すかのように元気いっぱいに咲き、桃岩歩道沿いの草原を白く染めています。

上段:エゾノハクサンイチゲ(6/1 桃岩歩道)
下段左:レブンコザクラ(6/1 桃岩歩道)
下段右:サクラソウモドキ(サクラソウ科 6/4 桃岩歩道)

 現在桃岩歩道ではオオバナノエンレイソウやホソバノアマナをはじめとするユリ科の花が多く見られます。さらにユリ科の花ではほかにもクロユリやバイケイソウがまもなく見ごろを迎えそうです。特に今年は発芽してから開花するまで長い年月を要する(十数年とも数十年とも言われます)バイケイソウの当たり年になりそうです。また、赤紫色のハクサンチドリ(ラン科)や紫と白のミヤマオダマキ(キンポウゲ科)も咲き始め、春先の枯れ色からようやく初夏らしいカラフルな色彩に変わってきました。


ユリ科の花々
上段左:オオバナノエンレイソウ(6/4 桃岩歩道)
上段右:ホソバノアマナ(6/1 桃岩歩道)
下段左:ツバメオモト(6/1 桃岩旧道)
下段右:エゾヒメアマナ(6/1 桃岩歩道)

 そして忘れてはいけないのが、礼文島を代表する花レブンアツモリソウ(ラン科)です。今年も昨年同様開花がやや遅れましたが、現在北部鉄府(てっぷ)地区のアツモリソウ群生地で見ごろを迎えています。まだつぼみの状態の個体も見られることから6月の中旬ぐらいまでは元気に咲いている姿を楽しめそうです。


双子のレブンアツモリソウ(6/4 アツモリソウ群生地)

 以前の記事で、6月の礼文島は霧が発生することが多く、それが高山植物にとって命の源になっていることをお伝えしました。そしてその記事の中で昨年は霧の発生する日が少なかったことで高山植物たちにやや元気がないように感じると書きましたが、今年も6月に入ってから好天が続き、霧が発生する確率は低くなっています。そのせいか上にあげた花々は例年より若干速く花期の終わりを迎えつつあるように感じます。天気予報によればこの先もしばらく好天が続くということですので、昨年のように今後開花ペースが一気にアップしていくかもしれません。昨年は気がつけばあっという間に花の季節が過ぎ去っていった感じだったので、今年はもっとゆっくり花の季節を楽しみたいと思っているのですが…

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2013年05月17日春の探鳥会

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 三枝 幸菜

 北端の利尻島でも、最近は朝晩暖房をつけなくても過ごせる程度に暖かくなってきました。島の中を歩いていると、巣材を口に咥えたハシブトガラスや、高らかに鳴き交わすノゴマに出くわす事もあります。この島にも、ようやく遅い春がやってきたようです。

 さて、利尻島では5月5日に利尻町立博物館主催による探鳥会が行われました。
 下記の写真にあるように、捕えた鳥を記録し足環を付けて放鳥する鳥の標識調査の見学をさせていただいたり、調査のために利尻島を訪れていた獣医の卵である酪農学園大学野生動物医学センターの学生さんにお話しを伺ったり有意義な時間を過ごさせていただきました。


(左:鳥の標識調査の見学の様子(提供:利尻町立博物館 佐藤雅彦氏)) 
(右ルリビタキの雄)
 
 学生さん達の話の中で印象的だったのは、「保全医学」という学問についてのお話です。人の健康、動物の健康、生態系の健康の重なりに着目し、人間以外の健康も人間に関係あるものとして研究していこう、という考え方の学問だそうです。


(学生さんよるプレゼンテーションの様子)
 
 利尻島では、利尻山の登山道の崩壊や植生の荒廃が問題となっていますが、これは保全医学で言うところの「生態系の健康」が脅かされている状態にあたるのかもしれません。そして植生の荒廃は、登山道の崩壊を加速させ、登山道の崩壊は、足場を悪くし滑落事故を引き起こしやすくするなどの「人間の健康」を脅かす事になる…。聞きかじりの知識でしかありませんが、「保全医学」という視点で利尻山について考えると、そんな繋がりが見えてくるように思いました。

 人間は人間だけで生きているわけではなく、動物や環境もまた、それだけで存在しているのではありません。良しにつけ悪しにつけ、相互に影響を及ぼし合っています。生きていく中でいつも頭の隅に置いておきたい考えです。


(探鳥会参加者での記念撮影!(提供:利尻町立博物館 佐藤雅彦氏))


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2013年05月09日利尻山の雪化粧

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 三枝 幸菜

 はじめまして。4月から稚内自然保護官事務所利尻事務室のアクティブレンジャー(AR)に着任した三枝幸菜です。生き物が好きで、山が好きで、自然が好きで、自然の中にある人の営みが好きで、好きを追いかけていたら、この利尻島にたどりつきました。
 晴天の日のこの島で、海と空の青の中で雪を纏って佇む利尻山の凛とした姿には惚れ惚れとさせられます。今から、夏の利尻山を登るのが楽しみです。

 さて、その利尻山ですが、今年は例年より雪融けが遅い模様です。

下の写真は昨年2012年の5月8日に撮影された写真です。



そしてこちらの写真が、同じ場所で今年2013年5月7日に撮影した写真です。


 見ての通り、今年の利尻山はまだまだ真っ白です。昨年の写真と見比べてみると雪融けは半月あまり遅れていそうです。

 利尻登山を計画されている方は十分ご注意ください。また、利尻山については以下のホームページにも情報を掲載していますので参考にしていただけたらと思います。

http://www.env.go.jp/park/rishiri/guide/view_3_1/index.html


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2013年04月30日礼文島の花シーズン開幕です

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 長かった冬も終わり、礼文島にようやく春がやってきました。今年の礼文島は記録的な豪雪に見舞われた昨年と比べると雪解けは順調で、低地では雪が残っている場所はほとんど見られません。そして雪解けとともに春の植物が芽吹き始め、久種湖では春の訪れを告げる花であるミズバショウやザゼンソウ(ともにサトイモ科)が開花しています。
 例年礼文島の花シーズンは島の北部に位置する久種湖のミズバショウやザゼンソウ、同じく北部ゴロタ岬付近のエゾエンゴサク(ケシ科)やキバナノアマナ(ユリ科)の開花から始まります。今年もゴロタ岬付近ではすでにエゾエンゴサクが見ごろを迎えており、キバナノアマナも少しずつ咲き始めました。さらに久種湖のミズバショウも見ごろを迎えつつあります。


上段左:エゾエンゴサク(4/20 ゴロタ岬) 上段右:キバナノアマナ(4/20 ゴロタ岬)
下段左:ミズバショウ(4/28 久種湖)  下段右:ザゼンソウ(4/28 久種湖)

 その一方で島の南部では桃岩歩道一帯ですでに見ごろを迎えているフキノトウ(キク科)の他はエゾエンゴサク、ザゼンソウ、キバナノアマナ、ヒメイチゲ(キンポウゲ科)が少しずつ咲き始めているものの、まだ開花している個体はあまり多くありません。また、標高が高い南部の礼文林道ではまだ一部に多くの雪が残っています。日本では桜前線や梅雨前線のようなある季節の訪れを知らせる便りは南から北へ移動していくのが普通ですが、礼文島では春の訪れを知らせる便りは北から南へ移動するようです。


まだ雪が残る礼文林道(4/28)

 現在の礼文島は枯れ色が目立ち、色彩豊かな夏と比べるとまだまだ寂しい感じがしますが、よく観察しながら歩道を歩くと開花を待つ花の芽やつぼみをたくさん見つけることができます。夏になると周りの植物の陰に隠れてしまったり、すでに開花している色とりどりの花に目を奪われたりして開花を待つ花の芽やつぼみに注目することは少なくなりがちですが、裏を返せば雪解け直後のこの時期は植物の芽やつぼみをじっくり観察するチャンスと言えるのです。


開花を待つつぼみ
上段左:レブンコザクラ(サクラソウ科 4/28 桃岩歩道) 
上段右:エゾノリュウキンカ(キンポウゲ科 4/27 ゴロタ岬)
下段左:キジムシロ(バラ科 4/21 桃岩歩道)
下段右:ナニワズ(ジンチョウゲ科 4/21 礼文林道)

 礼文島の春、枯れ野の中に咲く花を探すのはもちろん楽しいですが、それに加えて開花を待つ花の芽やつぼみにも注目するとさらに楽しみの幅が広がると思います。この時期ならではのおススメですよ。

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2013年02月15日The World Wetlands Day 2013.Feb.2

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

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2月2日は、ラムサール条約が締結された日として「世界湿地の日(The world wetlands day)」に定められています。そのため世界各地では、2月2日の前後に湿地にちなんだ様々なイベントが開催されています。
そこで、ウトナイ湖・支笏湖・洞爺湖・サロベツ原野など、日本の代表的な湿地を含む国立公園等を所管する北海道地方環境事務所では、平成24年9月24日に北海道の新たなラムサール条約登録湿地に道南の大沼(七飯町)が登録されたことを記念して、ウトナイ湖・支笏湖・洞爺湖・利尻礼文サロベツのアクティブレンジャーで、AR日記のリレー企画を行うことにしました。
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 さて、サロベツ原野を皮切りに洞爺湖、支笏湖とリレーされてきたAR日記、第4弾Part2では再びサロベツ原野についてお伝えします。先日の山上ARの記事では湿原の保全と農業の共生という「ワイズユース」を取り上げましたが、今回の記事では人々の交流、情報交換、教育、参加、啓蒙活動などの観点からの「ワイズユース」について、先日2月10日(日)に開催された「サロベツ森のスノーシューハイク」を例にお伝えします。

 「サロベツ森のスノーシューハイク(主催:NPO法人サロベツ・エコ・ネットワーク 共催:環境省稚内自然保護官事務所)」は2月2日の世界湿地の日(The world wetlands day)にちなみ、サロベツ原野北部円山の森をスノーシューで散策し、雪上の野生動物の足跡や木々の冬芽、樹間を飛び交う小鳥などの自然観察を楽しむとともに多くの生物を育むかけがえのない湿原や私たちの暮らしとのつながりについて考えてもらうきっかけづくりを目的とした観察会です。

 円山の森は現在のサロベツ原野のほとんどが海とつながっていた時代から陸地だった場所で、見渡す限りの平原が広がる原野南側とは対照的にマツ科の針葉樹やカバノキ科をはじめとする広葉樹など多くの樹種が見られるほか、平地、高山、湿地などそれぞれの立地を好む樹木が狭いエリアに混生しながらも一定の棲み分けをしているという特徴を持っています。また、このエリアは夏の間ササや灌木が生い茂って立ち入ることができないのですが、冬にはスノーシューを履いて歩いて立ち入ることができます。今回の観察会はサロベツ湿原センター北側から森に入り、反時計回りに東側のマツの針葉樹林→西側のカバノキ等の広葉樹林→サロベツ原野→サロベツ湿原センターという周回コースで行われました。


観察会のコースマップ(写真上側が北)

 観察会当日の天気は快晴、しかも一年をとおして吹き荒れる強風もなく、絶好の観察会日和でした。サロベツ湿原センターに集合した後、この日の参加者13名とともに円山の森に向かいました。森を入ってすぐのところでまずは自然の中での五感を研ぎ澄ますためのネイチャーゲーム「カモフラージュ」を行いました。このゲームは決められたエリアの中にあらかじめ仕掛けておいた人工物を見つけ出すのですが、なかなか難しかったようで全問正解者はおひとりだけでした。続いて松林の中で目を閉じて聞こえた音を皆さんに報告してもらいました。ただ、残念ながら皆さんが耳を澄ませている間、野鳥の気配はなく、風がなかったことも災いして遠くのカラスの鳴き声しか聞こえませんでした…


上段左:この日のメインガイド、サロベツ・エコ・ネットワーク職員による解説
上段右:自然の中から人工物を見つけ出すネイチャーゲーム「カモフラージュ」
下段左:エゾユキウサギの足跡(この日は姿を見せてくれませんでした…)
下段右:トドマツ(左)とエゾマツ(右) エゾマツは樹皮がうろこ状に割れることで見分けます

コース前半のマツ林で円山の森を代表する樹木であるトドマツ(マツ科モミ属)とエゾマツ・アカエゾマツ(マツ科トウヒ属)の違いなどを解説し、続いて巨木の森と呼ばれるエリアではサロベツ原野が国立公園に指定される前の入植が始まったころ、円山地区の森では多くの巨木が木材として利用されたこと、今ある巨木はその時代にたまたま利用されなかったものであることなど円山の森と人の暮らしとのつながりについて解説しました。
巨木の森から原野へ向かう途中、樹種がマツ科の常緑針葉樹からカバノキ科のハンノキ・シラカバ・ダケカンバ、ブナ科のミズナラ、モクセイ科のヤチダモなど落葉広葉樹へと徐々に変わっていきます。それとともに森の中が明るくなっていき、原野に出た瞬間目に飛び込んできたのはこの時期あまり目にすることができない利尻山の雄大な姿でした。利尻山に見とれながらしばし休憩し、全員で記念撮影を行った後、原野で目にする、雪の上にちょっとだけ頭を出しているハンノキが湿原の乾燥化の指標となっていることについて解説しました。


上段左:巨大な天然かまくら(通称ジャイアンハウス)
上段右:巨木の森のミズナラ(通称森の主)
下段左:原野で記念撮影
下段右:原野から利尻山を望む

その後、原野から再び森に入り、それまで姿を見せてくれなかったハシブトガラ(スズメ目シジュウカラ科)やコゲラ(キツツキ目キツツキ科)の姿を観察しながらサロベツ湿原センターへ戻りました。

 天気が良かったこともあり、参加いただいた方はみなさん非常に楽しんでいただけたようでした。そしてサロベツの自然の素晴らしさを感じていただけたと思います。今回のような観察会を通じて自然の素晴らしさを知っていただくことに加え、参加者同士の交流や情報交換の場ができることによって、多くの人が湿地の素晴らしさとその重要性を共有することができるようになれば素晴らしいことだと思います。それによってラムサール条約の基本理念である守りながら利用する「ワイズユース」につながっていけばうれしい限りです。湿地の重要性をより多くの方々に伝えるため、今後もこのような観察会を実施していきたいと思います。

最後に…
 今回は紹介できませんでしたが、利尻礼文サロベツ国立公園にはサロベツ原野のほかにも稚咲内砂丘林の湖沼群、利尻島の姫沼やオタドマリ沼、礼文島の久種湖などそれぞれに形成過程や特徴が異なった多くの湿地があります。湿地の宝庫利尻礼文サロベツ国立公園へお越しの際は多種多様な湿地巡りをするというのも楽しいと思いますよ。

【関連リンク】
http://www.sarobetsu.or.jp/center/
サロベツ湿原センター

http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/2013/01/1026.html
平成25年1月25日 AR日記(山上AR)

AR日記リレー企画も来週がいよいよ最終回!
それでは、苫小牧の平ARよろしくお願いします!

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