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アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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利尻礼文サロベツ国立公園 稚内

268件の記事があります。

2013年02月14日The World Wetlands Day 2013.Feb.2

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

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 2月2日は、ラムサール条約が締結された日として「世界湿地の日(The world wetlands day)」に定められています。そのため世界各地では、2月2日の前後に湿地にちなんだ様々なイベントが開催されています。
そこで、ウトナイ湖・支笏湖・洞爺湖・サロベツ原野など、日本の代表的な湿地を含む国立公園等を所管する北海道地方環境事務所では、平成24年9月24日に北海道の新たなラムサール条約登録湿地に道南の大沼(七飯町)が登録されたことを記念して、ウトナイ湖・支笏湖・洞爺湖・利尻礼文サロベツのアクティブレンジャーで、AR日記のリレー企画を行うことにしました。
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 さて、サロベツ原野を皮切りに洞爺湖、支笏湖とリレーされてきたAR日記、第4弾も前回の福家ARに続き2本立てでお送りします。まず今回ご紹介するのはコハクチョウをはじめとする水鳥の渡りの中継地クッチャロ湖です。

 オホーツク海に面した浜頓別町に位置するクッチャロ湖は南の大沼と北の小沼という2つの沼からなる周囲約27kmの汽水湖で、1989年に日本で3番目のラムサール条約登録湿地に登録されました。日本最北のラムサール条約登録湿地であるクッチャロ湖は渡り鳥にとって日本の玄関口となっていて、特にコハクチョウは日本で越冬する個体のほとんどが渡りの中継地として飛来するといわれています。

(クッチャロ湖についての詳細なプロフィールは以下のリンクから)
http://www.town.hamatonbetsu.hokkaido.jp/sightSeeingEvent/index_lake.phtml
浜頓別町ホームページ

http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/2012/11/988.html 11/2
AR日記(中野)

 クッチャロ湖はこれまでAR日記リレー企画で取り上げてきた地域と一つ大きな違いがあります。それはこれまで紹介してきたサロベツ原野、洞爺湖、支笏湖がいずれも国立公園に指定されているのに対し、クッチャロ湖は国立公園の指定はされていないということです。ただ、その一方で、クッチャロ湖は1968年に北オホーツク道立自然公園、1983年に国指定鳥獣保護区、1989年にラムサール条約登録湿地、1999年に東アジア地域ガンカモ類重要生息地に指定されるなど北海道を代表する風景地として、また、水鳥の飛来地としてその重要性が高く評価され保護が図られてきました。


クッチャロ湖の夕日とコハクチョウ(H24.11/21)

 コハクチョウやカモなどの水鳥類は湿地に生育する水草や水生昆虫などを主食としています。しかし、クッチャロ湖では近年、窒素やリンなどの栄養塩の過剰な流入によるアオコの発生(平成9年)など水質の悪化が見られることから、平成16年に地元の浜頓別町や環境省をはじめとする関係機関によりクッチャロ湖等保全対策協議会が設置され、クッチャロ湖の貴重な自然環境を保全する取り組みが進められています。

 地元の浜頓別町では大沼に流入するレカセウシュナイ川や小沼に流入する安別川に炭素製の繊維を沈めて有機物を吸着させる取り組みや、流域の無立木地域に土壌から流出する栄養塩をろ過する機能を持つドロノキやハンノキなどを植樹する取り組みを行い、クッチャロ湖の自然環境保全に努めています。


安別川河畔の植樹作業(H24.10/31)

 クッチャロ湖とその周辺地域にはコハクチョウやカモなどの水鳥類のほか、同じく水辺の虫や貝類などを主食とするシギの仲間、虫や両生類や甲殻類などを主食とするサギの仲間など多様な野鳥が飛来します。これらの野鳥はクッチャロ湖の生態系の一部であり、仮にクッチャロ湖の自然環境が悪化し、餌となる水生生物が影響を受けると貴重なえさ場を失ってしまうことになります。クッチャロ湖の自然を守るということはその豊かさを求めて飛来してくる野鳥を守るということでもあるのです。また、クッチャロ湖の自然環境保全が重要であるのと同じく、世界的にも有数のコハクチョウの飛来地を多くの人に見てもらうことも重要であり、ハクチョウが町のシンボルとなっている浜頓別町ではクッチャロ湖を重要な観光資源と位置づけ利用の促進を図っています。貴重な自然を守りながら利用していく、それはラムサール条約の基本理念の一つ「ワイズユース(湿地の賢明な利用)」につながっています。

http://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/1.html
ラムサール条約(環境省自然環境局)


上段左:クッチャロ湖を訪れる観光客
上段右:水鳥観察館入り口付近に設置されている顔出しボード(浜頓別町のイメージキャラクタースワットンとハッピーリングが描かれています)
下段:ラムサール条約湿地であることを示す標識

 湖畔の水鳥観察館では湿地の紹介や飛来する水鳥などの情報発信を行っています。ラムサール条約の基本理念の一つ交流・学習ができる施設ですので、クッチャロ湖へお越しの際はぜひお立ち寄りください。

http://www.town.hamatonbetsu.hokkaido.jp/sightSeeingEvent/index_mizudori.phtml
浜頓別町水鳥観察館ホームページ

Part2へつづく



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2013年01月25日The world wetlands day 2013.Feb.2

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山上佳祐

 2月2日は、ラムサール条約が締結された日として「世界湿地の日(The world wetlands day)」に定められています。そのため世界各地では、2月2日の前後に湿地にちなんだ様々なイベントが開催されています。

 そこで、ウトナイ湖・支笏湖・洞爺湖・サロベツ原野・クッチャロ湖など、日本の代表的な湿地を含む国立公園等を所管する北海道地方環境事務所では、平成24年9月24日に北海道の新たなラムサール条約登録湿地に函館の大沼が登録されたことを記念して、ウトナイ湖・支笏・洞爺・利尻礼文サロベツのアクティブレンジャーで、AR日記のリレー企画を行うことにしました。今回はそのパート1ということで、ラムサール条約登録湿地の1つである「サロベツ原野」の紹介をしたいと思います。



 サロベツ原野には、低地における日本最大の高層湿原があります。多種多様な湿原植物や水生植物が生育し、春から秋(5月~10月)にかけてツルコケモモやモウセンゴケ、ワタスゲ、ヒメシャクナゲ、エゾカンゾウ、カキツバタ、ヒオウギアヤメ、ノハナショウブなど100種類以上の植物が花を咲かせます。これらの植物は、豊富町のサロベツ湿原センター、幌延町のパンケ沼や幌延ビジターセンターなどで間近に観察することができます。


 サロベツ原野は、オオヒシクイやコハクチョウなど多くの渡り鳥の移動ルート上にあり、その周辺の地域も含めて休息や採餌を行う場として重要な場所となっています。このサロベツ原野と渡り鳥の関わりを地元や近隣に住む人々に知ってもらうため、稚内自然保護官事務所では日本野鳥の会道北支部、利尻礼文サロベツ国立公園パークボランティアの会と協力して、秋の渡り鳥を観察するイベントを毎年開催しています。

 このように、サロベツ原野には湿原、湖沼などの多様な湿地があり、様々な動植物を育んでいますが、反面、湿原の乾燥化が進んでササの分布が広がるなどの問題も生じています。これらの問題を解決するため、平成17年から環境省のほか各関係機関や団体、地域に住む人達、サロベツが大好きな人達などたくさんの人々が協力し、農業と共生しながら湿原の豊かな自然を取り戻すための取り組みが進められています。

 前回のアクティブレンジャー日記(平成24年8月)でもお話ししましたが、自然再生を進めていくには、各関係機関による事業、専門家による科学的な調査やその意見を聞くだけでなく、地域の人々と協力を深めていくことも欠かせません。


そこで、地域の人々に湿原と農業の共生を目指したサロベツの自然再生をより身近に感じてもらうため、昨年の10月20日にサロベツ湿原センターでサロベツの湿原と農業の共生をテーマとしたサロベツ・エコモーDAYを開催しました。

サロベツ・エコモーDayでは、地元の農業関係者の方々など多くの地域の人々に協力をいただき、豊富牛乳を使った料理コンテストである「サロベツを食べよう」、普段は入れない泥炭採掘跡地と、地域の方が経営する農場を見学する「自然再生エコツアー」、農業用車に乗ることができる「トラクターに乗ってみよう」、普段は乗ることができないサロベツ湿原センターの浚渫船に乗ることができる「浚渫船に乗ってみよう」、自然再生の取り組みを紹介する「自然再生を知ろう」、町のおじいちゃんからサロベツ原野の開拓の歴史や自然の魅力を聞く「エコモー交流会」の6つのイベントを行い、サロベツの湿原と農業の共生を楽しみながら知ってもらう1日にすることができました。

 サロベツの自然再生は、国立公園に指定された1974年当時の自然を取り戻すことを目標にしていますが、そのためにはとても長い年月を要します。この取り組みをこれからも続けていくためには、地域内外の多くの人々の理解と協力が必要不可欠なのです。

それでは洞爺湖の大塚さん、来週はよろしくお願いします!

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2012年11月02日国指定浜頓別クッチャロ湖鳥獣保護区

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 日本の最北端宗谷岬から南へ約60km、オホーツク海に面した浜頓別町にクッチャロ湖はあります。南の大沼と北の小沼という二つの沼からなる周囲約27kmの汽水湖で、コハクチョウなど水鳥類の重要な渡りの中継地となっているほか、四季を通じて多様な野鳥が訪れる絶好の野鳥観察スポットです。特にコハクチョウについては日本で越冬する個体のほとんどがこのクッチャロ湖を経由しており、春と秋には数千羽のコハクチョウで湖畔がにぎわいます。


クッチャロ湖畔(10/31)

 クッチャロ湖はコハクチョウのほかにも多くの水鳥類が生息すること、渡り鳥の日本における玄関口として重要な役割を果たしていることなどから、1983年、国指定浜頓別クッチャロ湖鳥獣保護区(面積:2,803ha、うち1,607haが特別保護地区)として指定されました。また、1989年には日本で3番目のラムサール条約登録湿地に指定されるなど国際的に重要な湿地として認知されています。


湖畔の水鳥観察館。ここで水鳥や湿地についての情報を得ることができます。(10/31)

 現在、クッチャロ湖大沼南東の湖畔では300羽ほどのコハクチョウ、オナガガモなどのカモ類、ユリカモメなどのカモメ類を観察することができます。この時期コハクチョウをはじめ、クッチャロ湖を経由する水鳥類の大部分は本州で越冬するため南へ渡っていきますが、中にはクッチャロ湖で越冬する個体もいて現在残っている個体のほとんどはこのまま越冬し、春の渡りの時期まで留まるのだそうです。

【野鳥を観察される方へ】
 クッチャロ湖の魅力は何と言っても野鳥を至近距離でじっくり観察できることですが、鳥インフルエンザ等の感染症を予防するため、湖畔には防護ネットが設置されています。必要以上に近づくことで野鳥へストレスを与えてしまうことにもなりますので、野鳥観察の際、防護ネットの内側へ立ち入ることのないようお願いいたします。


上段左:コハクチョウ(カモ目:雌雄同色 10/22)
上段右:ヒシクイ(カモ目:雌雄同色 10/31)
下段左:オナガガモ(カモ目:オス 10/31)
下段右:湖畔に設置されている防護ネット(10/31)


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2012年10月30日利尻山の冬支度

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山本 貴之

昨年より12日遅い、10月13日に初冠雪が確認された利尻山(観測日は14日)。それから荒れた天気が長く続きましたが、ようやく26日に青空が広がり、久しぶりに山頂が姿を見せてくれました。まだ真っ白というほどではありませんが、うっすらと雪化粧した利尻山と山麓の緑や紅葉とのコントラストが美しい、この時期ならではの景色です。


仙法志岬園地から


オタドマリ沼園地から

さて、夏の登山シーズンも終わり、登山道に設置された「携帯トイレブース」も冬の厳しい風雪による傷みを防ぐためブルーシートで冬囲いされています。雪が解ける来年の6月までトイレブースは利用できませんが、これからの季節に利尻山を登山される方も、引き続き携帯トイレを持参するようにしてください。
もちろん、すでに山の上では雪が積もり、気温も氷点下まで下がります。現在はまだアイゼンやピッケルまでは必要ありませんが、それ以外は冬山装備で臨んでください。安易な登山は大変危険です。


冬囲いされた携帯トイレブース

ちなみに、北麓野営場(鴛泊コース登山口)の携帯トイレ回収BOXはこの時期設置されていませんので、携帯トイレを使用した方は、利尻島内であれば「燃えるゴミ」として各自で処分していただきますようお願いします。また、見返台(沓形コース登山口)の回収BOXも11月以降は設置されていません。

最高気温が10℃を切る日も多くなってきた利尻島。少しずつですが着実に、北の長い冬が近づいて来ています。



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2012年10月16日渡り鳥とサロベツ原野

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山上佳祐

サロベツでは、急に冷え込みが厳しくなってきました。最近は、原野を見ると植物の多くが実を蓄えている様子、空を見るとオオヒシクイやマガンなどの渡り鳥が飛んでいる様子をよく見かけます。


オオヒシクイやマガンをはじめとした渡り鳥は、毎年、越冬のための渡りの中継地としてサハリン、カムチャッカ半島からサロベツ原野に飛来します。そして、その中継地としての価値が認められ、サロベツ原野は、水鳥の重要な飛来地としてラムサール条約湿地に登録されています。


稚内自然保護官事務所では、地域の方に渡り鳥とサロベツ原野の関わりを知っていただくために、毎年、日本野鳥の会道北支部や利尻礼文サロベツ国立公園パークボランティアの会と共催で秋の渡り鳥観察会を行っています。
観察会では、サロベツ原野に隣接する牧草地帯で渡り鳥が牧草を食べている様子や、夕方に休息のためにペンケ沼に向けて飛び立つ様子を車の中や農道から観察します。
今年も参加者の方には、スタッフによる説明を聞きながら望遠鏡で渡り鳥を観察してもらい、飛来状況や生態などについて知ってもらうことができました。また、実際のオオヒシクイと同じ重さのぬいぐるみを抱いてもらい、重さも体感してもらいました。


オオヒシクイやマガンは、10月下旬までサロベツ原野で休息し、その後、本州の越冬地へと旅立ちます。皆さんの近隣でオオヒシクイやマガンの飛来が見られましたら、北の果てからはるばる渡ってきた彼らを是非見守っていただければと思います。

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2012年10月01日今年の花シーズンを振り返って

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 長かった残暑もおさまり、礼文島はようやく秋の空気に変わってきました。華やかな夏の彩りから一転、山は枯れ色が目立つようになってきましたが、花の季節はまだまだ続いており、現在ラストスパートといったところです。
 秋の礼文島ではコガネギク(別名ミヤマアキノキリンソウ)やトウゲブキをはじめとするキク科、チシマリンドウやハナイカリをはじめとするリンドウ科、ミソガワソウやイブキジャコウソウをはじめとするシソ科の花が目立ちます。また、礼文島の秋の花と言えば、トリカブトの仲間リシリブシ(キンポウゲ科)も忘れてはいけません。そして、現在、礼文島の花シーズンの最後を飾るレブンイワレンゲ(ベンケイソウ科)が見ごろを迎えています。


秋の花々
上段左:コガネギク(9/8桃岩歩道) 上段右:チシマリンドウ(8/17鉄府)
下段左:ミソガワソウ(8/8桃岩歩道)下段右:レブンイワレンゲ(9/20江戸屋)

 これらの花は主に8月から9月に見ごろを迎える花ですが、今年の花シーズンは春先こそ例年よりゆっくり目のペースだったものの、初夏以降急激にペースアップしたことですでに咲き終わっているものが多く見受けられます。秋の花の代表格の一つツリガネニンジン(キキョウ科)も例年であればリシリブシとともに青紫の彩りを添えてくれるのですが、今年は8月中にほとんど咲き終わってしまい、リシリブシと並んで咲く姿はほとんど見られませんでした。


リシリブシとリシリフジ(利尻富士)(9/8桃岩歩道)

 今年の花シーズン、元気だったのはエゾエンゴサク(ケシ科)、カラフトハナシノブ(ハナシノブ科)レブンソウ(マメ科)、カラフトゲンゲ(マメ科)などで、その一方、エゾノハクサンイチゲ(キンポウゲ科)やエゾカンゾウ(ユリ科)などはやや元気がなかったように感じました。今年は冬の豪雪に始まり、霧の季節である6月の好天続き、その反動のような夏の天候不順、そして記録的な残暑など例年にない気象条件が続き、季節感覚がつかみづらい年でした。人間ですら感覚が狂わされる気象条件に季節に敏感な植物たちはさらに戸惑ったのではないでしょうか。上記のような花の咲き具合の差や通常より早い花シーズンの推移は例年にない気象条件が影響したのかもしれません。花の咲き具合は花粉を運ぶハチなどの活動と密接な関係があることや、多年草と呼ばれる植物は年によって花を咲かせず休養を取る場合があることなど様々な要因が関係するため一概には言えないところですが、年によって異なる気象条件が花の咲き具合にどう影響するのかは非常に興味深いところです。


上段左:エゾエンゴサク(5/19澄海岬) 上段右:カラフトハナシノブ(6/2桃岩歩道)
下段左:レブンソウ(7/24桃岩歩道)  下段右:カラフトゲンゲ(7/24礼文林道)
今年はたくさん咲きました

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2012年09月26日利尻山登山道合同整備

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山本 貴之

 残暑の厳しかった今年の利尻島ですが、最近は秋らしい冷たい風を感じるようになってきました。ようやく秋が来たかと思っているうちに、間もなく利尻山に初冠雪の報せが届くことでしょう。

 さて、ちょっと前の話になるのですが、去る9月7日に利尻町、利尻富士町、利尻森林事務所、稚内自然保護官事務所による、登山道の合同整備を行いました。
 登山道の荒廃を防ぐため、平成17年から地形や地質に合わせて様々な工法を試しながら山頂直下のスコリア地帯で登山道の補修を行っており、今年で8年目になります。


整備作業の様子

 利尻山の上部はスコリアというもろい火山礫が降り積もっていて、それを覆う薄い土壌と植生によって固定されています。登山者が滑りやすいスコリアを避けて歩きやすい植生の上を歩くことで植生が踏まれ、踏圧と雨水等によって土壌が流失し、下層に堆積していたスコリアが顔を出します。スコリア自体もその結束力のなさから踏圧や雨水によってどんどん流されていきます。そういった悪循環が繰り返され、あるところでは3m以上も浸食され、またあるところでは数mの幅に登山道が広がっています。


通称「3mスリット」と呼ばれる浸食された登山道

 下の写真左は、先に述べたように登山者がスコリアを避けて植生に踏み込んでしまうために広がりつつある場所です。そこで、写真右のように木柵を設けて登山道の拡幅を防ぎ、植生を保護しています。
 このように、利尻山で行っている登山道補修は植生の保護、回復を主な目的としており、その目的を達成する手段として登山道の歩きやすさを向上させているのです。



 利尻島は離島という条件もあり継続的に登山道の保全にあたる人材の確保が難しく、その技術や予算も不足しているのが現状です。それでも地元の関係機関が連携し、これからも継続して技術や思いを伝えていくことが大切だと思います。そして登山者一人ひとりにも、山を守ろうとしている人たちがいることや、自分の一歩一歩が自然を壊しも守りもするのだという思いを持って登山を楽しんでもらえたらと思います。


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2012年08月22日登山道整備

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山本 貴之

環境省による登山道整備工事が利尻山の沓形コースで始まり、今年度は8合目上部から三眺山までの区間で整備を行っています。昨年度に完了した鴛泊コースの整備と同様、「近自然工法」を用いての整備です。
近自然工法は、元々は河川工法として用いられてきたものですが、雨水や雪解け水などの流水が浸食の要因の一つとなっている登山道に応用されるようになり、現在では利尻山や大雪山、知床などで近自然工法による登山道整備が行なわれています。
利尻山で行っている登山道整備は、登山者の歩きやすさを向上すること以上に、登山道の荒廃や浸食を抑え植生の回復を図るといった利尻山の「自然を守る」ことを目的としています。
お花や景色だけではなく、登山道から見えてくる山の姿もあるかもしれませんね。

さて、工事期間中に沓形コースを利用される方へのお願いです。
工事中も登山道の通行はできますが、登山道上やその脇には整備用の石材や木材が積まれています。整備中ご不便をおかけして申し訳ありませんが、積まれた石材や木材に注意してご通行ください。また同様に、登山道脇には資材置き場が設置されていますが、人が乗るのは危険ですので、決して乗らないようお願いします。

幅の狭い登山道。安全のため、作業現場では作業員の誘導に従っていただきますよう、ご理解とご協力をお願いいたします。


すべて手作業による整備


資材置き場


整備用の資材

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2012年08月16日外来種子の防除にご協力ください

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 現在、礼文島南部の桃岩展望台から元地灯台へと向かう歩道の入り口に木の枠に囲まれたマットが設置されています。これは環境省の外来種防除事業の一環として試験的に行っているもので、歩道の入り口にマットを置くことで外来植物の種子が侵入するのを水際で防ごうというものです。


桃岩展望台入り口に設置されているマット

 辞書などによると、外来種という言葉の定義は「もともとその地にいなかったにもかかわらず、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物」ということですが、実は私たちも知らず知らずのうちに外来種の侵入に一役買ってしまっている可能性があるのです。特に植物については靴の底に種子をつけて他の場所に移動することが原因の一つとして考えられています。歩道の入り口にマットを設置しているのはそうやって移動してくる種子が高山植生の中へ侵入するのを防ぐという目的があるのです。ただ、このマットは定期的に交換しているため、時にはまったく汚れておらず、踏むのをためらわれる方もいるようです。しかし、このマットは踏まれなければ意味のないものです。遠慮は要りませんので靴底についた種子をマットでしっかり落としてから歩道を歩くようお願いします。


外来種子防除への協力を呼び掛ける貼り紙

 フラワーロードと呼ばれ春から秋にかけて色とりどりの高山植物で埋め尽くされる桃岩歩道ですが、近年はセイヨウタンポポ、ムラサキツメクサ、シロツメクサなど元々礼文島には生育していなかった外来種が侵入してきています。そこでそれら外来種の生育域がこれ以上広がらないようにするため、侵入状況の調査やすでに侵入している個体の除去作業など、在来の植物を守るための取り組みを行っています。そしてそれは礼文島の生物多様性を保全することにつながります。外来種とはいえ、ひとつの種を排除しようとすることは一見、生物多様性の保全とは逆行するように思えるかもしれません。実際、そこで精いっぱい生きている外来種を引き抜くときは申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、こうした外来種の中には侵略的に周囲の植物を駆逐してしまうものもあり、それによってその場所で長い間生きてきた一つの種が失われることこそ生物多様性の大きな損失なのです。そのような事態にならないために、侵入してしまった外来種を地道に除去していくことはもちろんですが、外来種がこれ以上侵入しないようにするための対策も必要であり、そのために皆様のご協力をお願いしたいのです。礼文島の生物多様性保全のためにまずはマットで種子を落とすというだれにでも気軽にできる小さな行動から始めてみませんか?


マットから回収した土。現在このサンプルの中に外来種の種子があるかどうか分析を行っているところです。ちなみに赤い丸で囲った大きな種子は外来種ではないようです(セリ科のオオハナウド?)

【関連リンク】
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/
(環境省生物多様性ホームページ)

http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html
(外来生物法)

http://www.town.rebun.hokkaido.jp/ikimono/index.html
(礼文島いきものつながりプロジェクト)

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2012年08月13日サロベツの自然再生について

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 山上佳祐

 

 サロベツには、低地における日本最大の高層湿原が広がっています。湿原にはエゾカンゾウやツルコケモモ、日本では宗谷地方の湿原にしか生息していないコモチカナヘビなど貴重な動植物が数多く生息し、サロベツの豊かな自然や風景を彩っているのです。
しかし、近年では湿原の乾燥化が進んでササの分布が広がるなどの問題が生じています。そこで、これらの問題を解決すべく、平成17年から上サロベツ自然再生事業がスタートしました。環境省をはじめとして、各関係機関や団体、地域に住む人達、サロベツが大好きな人達などたくさんの人々が協力し、農業と共生しながら湿原の豊かな自然を取り戻すための取り組みが進められています。

 自然再生は、各関係機関による事業や、専門家による科学的な調査や議論だけではなく、地域の人達による自然観察会や植樹イベントなどといった地道な広報活動や保全活動も行われており、自然再生事業を進めていくためには、地域の方々と協力を深めていくことは欠かせません。
そこで、より多くの人達に自然再生への関心をもっていただこうと、地元豊富町のお祭りであるホッキ祭りをとおして自然再生のPR活動を行いました。


 PR活動では、サロベツの自然再生に関係する地域活動(通称サロベツ・エコモー・プロジェクト)の紹介や、自然再生事業のパネルによる解説、マスコットキャラの塗り絵や野鳥カルタなどが催され、来場された皆さんにサロベツの自然や自然再生事業などの取り組みについて知ってもらいました。
 「エコモー」とは、エコロジー(=自然)とモー(=牛の鳴き声=農業)をかけあわせた造語で、サロベツの自然と農業が共生し、地域と自然が元気な、そんなサロベツにしていきたいという願いが込められています。


 また、子供の来場者を集めてネイチャーゲームを行いました。ネイチャーゲームとは、五感を使った自然体験プログラム(ゲーム)のことで、写真はミステリーアニマルというゲームを行っている様子です。 
 講師の「大きい目が2つあります。体は細長く・・・」といった説明だけを頼りに、大人も子供も楽しみながら想像して、個性的な動物の絵を描いていました。

 サロベツの湿原は約6000年という長い年月をかけて形成されました。サロベツの自然再生は国立公園に指定された1974年当時の自然を取り戻すことを目標にしていますが、そのためにはとても長い年月を要します。この取り組みをこれからも続けていくためには、地域内外の多くの人々の理解と協力が必要不可欠なのです。

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