ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

RSS

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内

243件の記事があります。

2008年10月17日遠つひと(とほつひと)

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 秋が深まるにつれ、青々としていたサロベツ原野は黄金色へとその姿を変えていき、冬の訪れが近いことが感じられます。北から旅をしてきたヒシクイたちが今年もパンケ沼、ペンケ沼周辺の牧草地にやってきたと聞き、パークボランティアさんに案内していただき、様子を見に行きました。ヒシクイはガン類に属する鳥でカモより大きく、ハクチョウより小さい水鳥です。私はヒシクイを見るのは初めて。「グワン、グワン」と盛んに鳴き交わしているヒシクイの大群には圧倒されるものがありました。サロベツ原野はこのヒシクイたちの南への渡りの中継地であることから2005年11月に「水鳥の生息地として国際的に重要な湿地」としてラムサール条約湿地に登録されました。

 彼らについてほとんど何も知らなかったので調べてみたところ、遠くユーラシア大陸北部で繁殖し、越冬のために渡ってきたということ、サロベツを訪れるヒシクイ(Anser fabalis)にはヒシクイ(Anser fabalis serrirostris)とオオヒシクイ(Anser fabalis middendorffii)という亜種があること、国の天然記念物に指定されていること、また、ヒシクイ以外にもサロベツ原野にはマガン、サカツラガン、カリガネ、シジュウカラガンといった雁たちも訪れるということを知りました。

 ヒシクイなど雁の仲間のことを聞くと私は小学生のころに親しんだ児童文学者である椋鳩十の作品「大造爺さんと雁」を思い出します。国語の教科書に載せられていたお話なのでご存じの方も多いかもしれません。老練な猟師、大造爺さんと残雪と名付けられた雁の群れのリーダーの物語です。大造爺さんと残雪の間には狩るものと狩られるものの戦いが繰り広げられます。市立図書館で久しぶりに読み返してみたところ、物語の舞台は九州地方の内陸の沼地で、そこまで渡ってくる可能性がある雁はヒシクイかマガンが考えられると解説に書いてありました。主人公、残雪は渡りの途中でサロベツ原野に立ち寄っていたかもしれません。物語にあるように、雁は一昔前まで狩猟の対象でした。確かに目の前にいるヒシクイたちはまるまる太って美味しそうです。サロベツに降りたったヒシクイは残雪のように警戒心が強く私たちが近づくとその分遠ざかり、一定の距離を保っていましたが、さらに近づこうとすると力強い音をたてて一斉に飛び立ちました! しかし、物語には誤りもあるようです。それは、雁を罠にかけるためにタニシを使っているところです。ヒシクイがヒシの実を好んで食することで知られているように、雁の仲間は植物質のものを食べるため、この部分だけちょっとおかしいです。


原野のオオヒシクイ

ところで、雁たちを始めとして鳥たちはなぜ渡りをするのでしょうか?
「渡り」という行動自体に私は疑問がありました。そもそも危険を冒して渡りをするくらいだったら、どうして夏の間もずっと越冬地に棲まないのでしょうか?越冬地は繁殖地より南にあり、暖かいし、餌も豊富に感じられます。春にわざわざ北に帰って行く必要もないような・・・。

生態学的には、鳥たちが「渡り」をするか否かは、渡りをすることで得られる「利益」と渡りに伴う「コスト」のバランスで決まると考えられているようです。しかし、利益の量、コストの量を何をもって正確に換算するのがよいかは分からないため、これは未だに理論にとどまってるそうです。しかし、簡単に考えてみることもできます。たとえば、利益を餌の量とし、コストを渡りに関する労力や危険性とします。もし、渡った場所で得られる餌が留まった場
所で得られる餌よりも多い上に、それが渡りをする危険や労力分を補ってもなお上回る量ならば、渡りをした方が得であるということですから、鳥たちは渡りをします。しかし、留まった場所で得られる餌の量の方が大きい場合、或いは、渡った場所での利益が大きくても渡りをする危険や労力の方がこれよりさらに大きかったりすると渡りをするのは危険な目に遭うだけで損ということになってしまいます。

 実際に、どんな利益を目的に渡りをしているのか?というと様々なものがあるでしょうが、重要なもののひとつはやはり餌であるようです。冬を越えた鳥たちには次に繁殖と子育てという大切な仕事が待っています。その仕事を行うためには十分な栄養を得られる場所が必要です。 春から夏にかけて北方には多くの虫が発生、植物資源も豊富に出現します。北方に渡った方が餌を食べつ
くした大入り満員の越冬地に残っているよりも個体あたり多くの餌を確保することができます。そして冬になり繁殖地が雪に閉ざされて餌が手に入らなくなると再び南へ移動するのです。

遠い昔から雁たちの間で何世代にも渡って繰り返されてきた「渡り」の営み。そこには私が考える以上に意味深い未知の部分が秘められていました。

 雁は日本人の心情や季節感とも深い関わりを持っています。短歌の中で、雁には「遠つ人」という枕詞があるそうです。雁を「遠く旅する人」に喩えています。秋になると鳴き交わしながらやってくる彼らに、人々は昔からひとりぼっちの寂しさや遠く離れて会えない人への想いを乗せたのでしょう。海原を越えて旅する国境なき雁たち。彼らと彼らが疲れた翼を癒すサロベツ原野を大切にしていくことは私たちの心の風景を守ることにも繋がるのかもしれません。



ページ先頭へ↑

2008年09月04日エゾニュウの秋

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

エゾニュウの秋

 サロベツ原野の9月。観光客で賑わった7,8月が去って、日々秋の気配が感じられます。晴れた日にはどこまでも高く青く澄み渡った空。風の流れを映し出して大空のキャンパスに描かれた柔らかい羽毛状の秋の雲が浮かんでいます。


秋の青空

このような空の美しさと利尻山の風景を楽しみながら海岸線を走っていくと、海岸砂丘の草むらからニョッキニョッキと突き出ている大型の枯れた草本に気づきます。枯れて茶色くなった彼らはしかし、びっしりと種をつけています。この草本の名はエゾニュウ、セリ科の一稔性の多年生植物です。
花期は7~8月、小さな白い花が無数に集まり、まるで打ち上げ花火が開いたかのようなとても大きな複散形の花序を形成します。


エゾニュウの花~白い大きな花火のよう~

この花は夏の間、昆虫たちの人気レストランでした。しばらく観察していると、お客はひっきなしにやってきました。
カミキリムシ、マルハナバチ、コハナバチ、ハナアブ、ハナバエ、カメムシ、甲虫etc・・・。
特にハエの類が数多く訪れていたようでした。セリ科植物の花には外に向かってさらけ出された花盤と呼ばれる蜜を出す部分があります。
ハエたちは舐めとるのに適した口で花盤を舐めていたようでした。
ハチたちもエゾニュウの花の間で花粉まみれになっています。
私が近づいても気づかないくらいエゾニュウに夢中でした。
直径が4,5cmの太い茎を持ち2,3mもの高さに成長するのも、無数の花を散りばめた大きな花序をつけるのも、
原野の中でよく目立って昆虫を沢山呼び寄せ、花粉を運んでもらうためなのでしょう。
一生に一度だけ花を咲かせるエゾニュウ。年々エネルギーをためこみためこみようやく建てられた花の塔。
次世代を創る沢山の種を実らせ、枯れていきます。
厳しい最北の原野に生育する野草に健気さとたくましさを感じました。


びっしりと種をつけ、役目を終える

エゾニュウの他にも多くの植物が今年の仕事を終え、実を結びました。
季節は巡って、サロベツ原野にはもうすぐヒシクイなど冬鳥たちが渡ってきます。原野の沼地も賑やかになることでしょう。



ページ先頭へ↑

2008年07月30日カヌーが一艘、サル・オ・ペツを行く

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 サロベツはアイヌ語でサル・オ・ペツ、「芦原を流れる川」という意味です。湿原の名称にもなったサロベツ川は湿原を生みだし、その水環境をよりよく保つためになくてはならない川です。今回、稚内自然保護官事務所の千田レンジャーと私、賀勢はサロベツ川でカヌーによる巡視を行いました。天気予報は外れてしまい、あいにくの曇り、おまけに寒くて川の流れとは逆方向に風が強く吹いていたので下流側の幌延町の音類橋から豊富の開運橋まで遡ることに決めました。
 私はカヌーは初めて!こぎ始め当初いくら頑張ってもカヌーが進みません!水を漕げていないのです。さらに困ったことには千田レンジャーと漕ぐタイミングが合いません(涙)!カヌーは川岸のアシの中に突っ込んだり、勝手な方向に曲がったりして、ちっともスムーズに進みません。「パドルは水面に対して垂直に!」、「漕ぐときにかけ声をかけるように!」と、指示を受け、その通りにやってみようと必死に努力しました。あっ、進み始めた! 少しずつカヌーを動かしたい方向に操れるようになってきました。
 サロベツ川のような湿原河川では水の流れは緩やかで河畔林がよく発達します。蛇行しながら緩やかに流れるこの川の特徴がサロベツ湿原の豊かな生態系を形づくってきたのです。ペンケ沼、パンケ沼含むサロベツ原野は、日本最大規模の高層湿原であり、ヒシクイ、タンチョウ、ガンカモ類の重要な飛来地として2005年11月にラムサール条約登録湿地に登録されました。
 やがてカヌーはパンケ沼の入り口に近づきました!目の前に広がるのは赤茶色に波立つ広大な湖。岸辺は遠く、まるで海のようです。サロベツ原野に広がるこの沼は海からの塩水が流入する特異な汽水環境を形成しており、ヤマトシジミが生息していることから、昔からシジミ漁が行われてきました。シジミ漁の漁船ともすれ違い、漁をしている状況を見ることができました。

広大なパンケ沼

 パンケ沼を出てしばらく行くとヤナギが水面近くまで覆い被さった優雅な岸辺がありました!風に揺れる緑の枝先が水面にゆらゆらと映っています。私が子どもの頃好きだった本にケネス・グレーアムの「楽しい川辺」というのがあります。このヤナギの岸辺の景色は物語の舞台である川辺に似ていました。

水面にかぶさる緑のトンネル

 昼食後、サロベツ川から下エベコロベツ川に入り、ペンケ沼を目指しました。ペンケ沼はパンケ沼と比べ、とても浅い沼でした。パドルを突き立てると底まで届き、底から湿原の植物が生え、頭をのぞかせています。なにやら不思議な世界。ペンケ沼では「幻の魚」と呼ばれるイトウの生息が確認されています。しかし、ペンケ沼は河川流入量の増加や土地利用の変化にともなう土砂の流入などで面積を減少させています。将来は消滅してしまうかもしれません。
現在、サロベツ原野で取り組んでいる自然再生事業では、このペンケ沼の埋塞をこれ以上進めないような対策を検討しているようです。

水底から草が突き出るペンケ沼

 ペンケ沼からサロベツ川に戻り、後は開運橋を目指してひたすら漕ぐのみです。サロベツ川までは風向きが逆風のため、なかなか進みません。千田レンジャーと私は交代で休みながら漕ぎ続けました。初心者なので、手が棒のようになり親指の付け根が擦りむけてきました。座りっぱなしなのでお尻も痛くてしょうがありません。ようやく開運橋が見えてきました。一踏ん張りと踏ん張って、橋のたもとのぬかるんだ岸辺にカヌーをつけました。「やっと着いた!」陸に降り立ってホッと一息。・・・と、「ぼちゃん」という音がしました。カヌーの上で立ち上がり、岸に移ろうとしていた千田レンジャーがバランスを崩して川の中でしりもち!びしょびしょになって岸に上がってきました(笑)。これで私と千田レンジャーは「湿原で水の中に落ちた仲間」になりました。
 今回の巡視でカヌーの漕ぎ方を覚えた上に、普段見ることのできないペンケ沼、パンケ沼の様子を知ることができました。サロベツ原野核心部の世界。多くの動物たちにとって楽園であるこの場所が未来まで残ってくれることを願ってやみません。





ページ先頭へ↑

2008年06月06日蛾眉(美人)には虫がつく???

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 サロベツ湿原では早春になると、雪の上を這う毛虫を見かけることがあります。湿原の代表的な昆虫種ヨシカレハという蛾の若齢幼虫です。幼虫の食草はヨシやササなので湿原ではよく見かけます。

 
ヨシカレハ幼虫(NPOサロベツ・エコ・ネットワーク 島崎暁啓さん提供)
 
来たばかりの頃、この毛虫に出会った私は、修士課程でやっていたように、幼虫を何十匹か飼育し、寄生蜂や寄生バエの種類を確認することで湿原昆虫の食物連鎖の一部を調べようと思い、5月中旬から実行に移しました。

 採集した場所はもちろん国立公園外です。全部で40匹採集。毛虫が寄生されていた場合、1匹の毛虫から何匹の寄生蜂、寄生バエが出てくるのか、毛虫が死んでしまった場合、それは寄生によるものか、その他の原因かを正確に把握するため、1匹ずつ別々のプラカップに入れました。


ヨシカレハ飼育の様子

 2日おきくらいの頻度で、ササの葉っぱを入れ替え、糞のお掃除をします。ヨシカレハの幼虫の糞は乾いた感じのとてもきれいな緑色をしています。幼虫はササの葉の先っぽでつんっとつついてやるとすぐに丸まってしまい、その様子はシダ類やワラビの新芽に似ています。
次の機会に写真を載せたいと思います。

 ところで、皆さんは「蛾眉」という言葉をご存じでしょうか?古い時代の中国で使われていた、死語になりつつあるこの言葉は「美人」という意味です。なぜ美人を表す言葉に嫌われ者の「蛾」が入っているのでしょうか?

 皆さんは蛾の触覚を見たことがあるでしょうか?蛾の触覚の形もいろいろありますが、ヤママユの仲間など、中心の軸に対してひだが沢山つき、羽毛状になった触覚を持つものがいます。触覚の先端にいくほど、ひだの背も低くなっていって、触覚全体は細かい毛の流れまで形よく整った三日月型の綺麗な眉のように見えます。このことから、蛾の触覚のような眉を持つことが美人を表す言葉として使われていました。

 採集した毛虫のうち、1匹が色が白っぽくてキレイなコだったので、稚内自然保護官事務所の美人レンジャーの名前からとって、蛾眉〇〇〇と名づけました。

 そして、ことは起こりました!!!
5月末のある日、ヨシカレハたちの世話をしに行った私は蛾眉〇〇〇ちゃんの背中にコマユバチの繭がびっしりついているのを発見しました!繭数を数えてみると約40個。その後、体長数ミリの小さい蜂が羽化してプラカップ内を飛び回りました。う~ん・・・。やっぱり美人には虫がつく!!! 
美人レンジャー、同じ名前の毛虫がこんなことになって申し訳ない!
私を嫌いにならないで~!
コマユバチの種名まで調べられるかは分かりませんが、この蜂を豊富ビジターセンターに置いてある顕微鏡で観察できるようにし、湿原のヨシ・ササ→ヨシカレハ→コマユバチの食物連鎖を紹介したいと思います。


コマユバチ(?)に寄生された蛾眉〇〇〇ちゃん

 さて、他の毛虫くんですが、今のところ順調に育っています。ヨシカレハの成虫を図鑑で調べると、蛾眉の由来になったようなきれいな羽毛状の触角を持っていました。成長が楽しみです。

 湿原は一見地味な環境です。起伏のない平坦な地形。森林もありません。そして、蛾も嫌われ者です。毒を持つものがいたり、方向感覚なくバサバサ飛び回るからでしょう。でも、湿原に生きるようになったヨシカレハの生活史や、 コマユバチの親がヨシカレハの居場所を突き止める方法を考えていると、生き物の世界は本当におもしろく、不思議に満ちていると気づかされます。
サロベツ湿原は不思議の宝庫です。

 今後もおもしろい虫がいたらちょくちょく飼ってみようと思っています。また、新しい毛虫(おそらくヒトリガの仲間)も飼い始めました。オニシモツケの葉を食べていました。心当たりがある方は名前を教えてください。



ページ先頭へ↑

2008年06月05日火星人(賀勢人)、サロベツに来たる

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 始めからぼちゃん!
・・・で幕を開けたサロベツ生活は2ヶ月が過ぎました。サロベツARに着任して初めて上サロベツ原野に出た日のこと、湿原に足を踏み入れた直後に雪解け水でできた深い水溜まりに落ちてお腹までびちょびちょ。事務所のカメラも水没させてしまいました。顛末書から始まったトホホ・・・なスタートです。

 遅ればせながら、はじめまして。4月からサロベツ地区ARになりました賀勢朗子(かせいあきこ)と申します。北海道は4年目。最初の2年は北大苫小牧研究林でミズナラにつく昆虫の研究を、去年は釧路にある道東地区野生生物室でエゾシカ調査やオオワシ・オジロワシ調査の補助をしていました。

 道北に来たのは初めて。
サロベツ原野に吹く猛烈に強い風、晴れた日に海上からつきでる利尻山。湿原の沼地に生息する沢山の水鳥たち・・・。様々な景色や周囲のものが新鮮に感じられる毎日です。
そして、人々。 
来た当初から海岸清掃や観察会、自然再生活動などサロベツを舞台に生き生きと活動する沢山のおもしろいパークボランティアさんたち、NPO、町、支庁、研究者の方たちに出会い、日々刺激されています。


稚咲内海岸清掃で頑張るみなさん

この方たちとのつながりを大切に、利尻礼文サロベツ国立公園のよさや楽しさをどんどん発見していこうと感じました。

 サロベツでは特に観察会やビジターセンターの展示解説物を作るのに関わってみたい!と思っている私は4月末に幌延地区で行われた野鳥観察会で子どもたちに水鳥のしぐさに興味を持ってもらおうとクイズ形式の紙芝居を作成しました!


水鳥しぐさクイズの紙芝居の様子(真ん中で紙芝居を持っているのが私です。)

 これからサロベツ原野には花々が咲き乱れる楽しい季節になります。様々な発見や活動をAR日記を通してお伝えしていけたらと思います。

 サロベツの火星人に応援よろしくお願いします!


サロベツ原生花園(豊富)VC木道沿いのショウジョウバカマ

ページ先頭へ↑

2007年07月30日登山用ストックにキャップをつけましょう

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

 ストックのキャップが外れたままになっていませんか?
 利尻島では、7月から登山用ストックのキャップを販売(島内の一部の宿泊施設での試験販売です。販売価格は315円)しています。
 ストックは足腰の負担を減らし、バランス補助にもなる大変便利な登山用品ですが、使い方によっては、登山道を傷めることがあります。皆さんも、何かお気付きになったことがあるでしょうか。例えば、登山道脇に無数の小さな穴が開いている場所を見かけたことはありませんか?

【参考写真: 大雪山・銀泉台付近】




 ストック利用が登山道の荒廃へ与える影響は、実証データが無いので、あくまで推測の域を出ませんが、次のような荒廃メカニズムが考えられます。

【1】ストックを突き刺すことで、地表面に穴が開き、掘り返される(ことがある)
【2】掘り返された土壌は、雨や登山者の踏圧によって流されやすくなる。(特に登山道脇のやわらかい土壌や、植生が失われると土砂が流されやすくなります)
【3】登山道の浸食が進むと、歩きやすさを求めて登山道の脇や登山道外への踏み込みが始まり、登山道が横に拡がりやすくなる。
【4】足場が悪くなるに連れ、ストックの利用頻度が増す。

→【1】?【4】を繰り返す

 上記からすると、「ストック利用が与える登山道荒廃への影響」は、よく目立つストックの開けた“穴そのもの”より、むしろストックの開けた穴が、次に起こる雨や登山者の踏圧による“土壌浸食を加速、拡大させてしまう要因になってしまうこと”に、問題がありそうです。また、突き刺しによる影響力は、キャップ無しの状態の方が、より強くなることも予想されます。

 そのため昨年来、利尻山ではこの山特有の崩れやすい土壌を守るために、地域ルール(利尻ルール)として「ストックにキャップをつけて下さい」と呼びかけているのですが、ストックキャップの販売は、このルールをより強く徹底させ、ストックの突き刺しによる地表面の掘り返しを軽減することが狙いです。と同時に、ストックという身近な道具を通じて山にやさしい登山を促すという副次的な効果も期待している所です。

【参考写真:利尻山でストックを利用する登山者】




 よく環境保全PRの常套句として「できることからはじめてみよう」と言われますね。しかし「山にやさしい登山って、一体何から始めたらいいの?」と、実際には分かりづらいと思います。ストックにキャップをつけることで軽減できる浸食は微かなものかもしれませんが、こんな簡単なことで、山にやさしい登山への一人一人の参加のきっかけを作れるのならキャップ装着の促進は、利尻山に限ったことではなく、より大きく広い意味を持つことになるでしょう。

 ただし、最後に登山用ストックにキャップを装着する際の注意点やアドバイスをいくつか挙げておきます。参考にしていただき、またご自分でも色々使いやすくする工夫をして楽しんでください。『道具は使い方次第』ですよね!

1.【ぬかるみ等に突き刺すとキャップが抜け落ちやすいので注意してください】
→粘着性の強いテープで固定しておくこと。先端部分(石突き)の泥や水分をしっかりと拭いてから装着すること。抜け落ちる可能性があるところには、そもそも突かないように注意することなどで対応してください。

2.【残雪や濡れた石の上など、キャップを装着することによって滑りやすい場合もあるので状況に応じて使い分けて下さい】
また岩場やロープの張ってある個所等、場合によってはストックを収納して両手を使った方が動きやすいケースもあります。
→普及の進むストックですが、実は使用に習熟の必要な道具です。

3.【利尻島内で販売しているストックキャップは1種類です】
これは径が細いモデルなので、強く押し込むことで他メーカー製のストックにも装着することが可能ですが、本来、異なるメーカー間でのキャップの互換性はありません。他メーカーのキャップを装着することによる事故に対して、メーカーも、利尻島での販売をおこなっている利尻山登山道等維持管理連絡協議会も責任を負うことは出来ません。
→出来る限り、利尻島に来る前に、ご自分のストックに合ったキャップをご用意ください。

4.利尻島内でのストックキャップ販売についての問い合わせ先
利尻山登山道等維持管理連絡協議会
・利尻町    0163-84-2345
・利尻富士町  0163-82-1114

【参考:ストックキャップ】

ページ先頭へ↑

2007年05月02日小さな宇宙

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

利尻島に湿原があることはあまり知られていません。

島の南部にある南浜湿原も、そのひとつです。
ここは、利尻山の火山活動の一時期に出来た側火山の爆裂
火口跡に生まれた湿原で、ギザギザした利尻山の稜線を背
景に、ミズゴケの赤い絨毯が広がる素敵なところ。
しかし、国立公園に指定されているわけでもなく、ひっそ
りと小さな漁港のそばにたたずんでいて、観光シーズン前
の今は、近所の人達のお散歩コースになっています。

南浜湿原メヌウショロ沼(06.5.16.撮影)
「日本の重要湿地500」に選ばれています。


今は、ちょうど「萌え?♪」の時期。

まだ寒々しい風景の中、ミズバショウの清楚な白い苞が、
太陽を指さすように咲いています。
「なんて、けなげでたくましいんだろう。」
と、少し感動。。

天を指す水芭蕉(以下全て07.4.25.撮影)


他にも、子犬のようなワタスゲの花(地味)。
キバナノアマナやザゼンソウが咲きはじめ、しょぼくれて
いたヒメシャクナゲの幹も、水分を吸い始めたのか徐々に
シャキッとしてきました。

春の湿原の植物はどれも小さくて、屈まないとよく観察で
きません。動きやすい服装で、小さな宇宙を散策してみま
せんか?

きっと新鮮な喜びが待っていますよ!


キバナノアマナ
 昨秋枯れたヨシが、雪の重みで倒されて、そのままフリ
ーズドライされています。それは、遅霜から花を守る天然
の毛布のようです。

ワタスゲ
 今は花の時期。見つけられるでしょうか?地味にむっく
りと咲いています。 

ページ先頭へ↑

2007年04月13日タビノヒト

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也


海に近い我が家の窓の外から
「フィフィ フィーホ」
と、子供が口笛の練習をするような、少し音程のはずれた
独特の鳴き声が聞こえてくる。
春の渡りの時期が来たのだ。

鳥のように島に訪れ、そして時期が来ると別のところに
飛んで行ってしまう転勤族のことを、利尻では
「タビノヒト」と言う。

人口約6千人のこの島は、関東の普通の街で育った私には
少し息苦しいほど匿名性が無い。

しかしそれだけに多くの人にとって、島の生活は愛着深い
ものになるだろう。昨年度、半年間アクティブレンジャー
としてこの地に暮らして、一番印象に残ったのは、昆布干
しに代表されるように、老若男女問わず島民が総出になっ
て短い夏にエネルギーを集中していく生活リズムだった。

音楽を奏でるように・・
ピタッとリズムが合っている。

それは見ていてとても面白かったし、羨ましく思えた。


私も「タビノヒト」のひとり。
私の上げる声はウソの鳴き声のように、少し音程がはずれ
たものになるのかもしれないし、今居る場所は、本来私が
住む場所とは環境が異なるのかもしれない。

だけど鳥の鳴き声が春を告げ、徐々に体を起こしていくサ
インになるのなら、私も島の奏でる音楽のクレッシェント
位にはなれるだろうか。

いま私は、半年振りに会う、島の人たちと話すのが楽しく
てたまらない。雑談だ。コミュニケーションなんていうス
マートなものではないが、人と会い、話して嬉しくなれる。

これから10月までの「タビノヒトトキ」。
こういうものを大切に思える場所を、守り、絶えず作り続け
ていく一員になれたらどんなに楽しいだろう。


4月の利尻山


夏の昆布干し

【自己紹介】
昨年度に引き続き、利尻島でアクティブレンジャーを務め
させていただくことになりました、岡田と申します。
多くの人と一緒に考え、汗を流したいと思います。
よろしくお願いします。


 END

ページ先頭へ↑

2006年10月13日NEWS 雪が降る

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

 10月7日、利尻山で初冠雪が観測されました。10月12日現在、山頂部では10?程度の雪が積もっています。
 これからの季節、気温は日中でも0度以下の日も多くなり、降った雪も完全には解けきらずに、岩の隙間などでは凍結していることもあります。また、10月の山は天候次第で冬山に急変します。
 冬山用の装備と技術を持つ登山者以外の安易な入山はお控え下さい。


ページ先頭へ↑

2006年08月30日札幌の学生4人が利尻登山道整備に飛び入り参加!

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

 「私たち、すごい貴重な体験してない?」
 こんな声が上がったのは利尻山の登山道侵食が一番深刻な山頂直下の登山道整備現場だった。

 8月26日、晩夏を感じさせる高く青い空の下、札幌から利尻登山に来ていた学生4人組が登山道整備を手伝ってくれたのです。
 この日、現場で作業していたのは環境省稚内自然保護官事務所の職員2名。二人で付近の火山礫を土のう袋に詰め、それを積み重ねて、植生への人の踏み込みと、火山礫の流れ込みを防止するための塀を築く計画でしたが、やはり2人での作業は一人何役もこなさなくてはならず大変です。
 午前11時頃、元気そうに頂上から下山してくる4人組に、ちょっと手伝っていかない?と、職員が声をかけると、「やってみようか」と、飛び入りで作業に参加してくれました。

作業をする若者たち

 それぞれスコップを手にしたり、土のう袋の口を塞ぐために裁縫をしたりと初めての作業に関わらず頑張っていました。
 作業の合間には、登山道が火山礫で覆われて歩きにくくなることの原因や、対策について考えてみることも。利尻山は火山礫の大変崩れやすい地質で、人が歩く登山道は当然侵食されやすいのですが、悪いことに侵食され剥げ落ちた火山礫は登山道を川のようにして下へ下へと押し流されていってしまうのです。こうして上から流れてくる火山礫は周辺のお花畑も覆ってしまい、裸地が拡大する。植生の破壊と、歩きにくい登山道化の同時進行が起きてしまっているのです。

深く侵食された登山道

 おそらく、ほとんどの登山者にとって山頂付近の登山道は「歩きにくい」ことでしょう。
 しかし歩きにくい道を作っているのが登山者自身であるのも事実。「どうしたらいいんだろう?」と、真剣に考える学生たち。この問いに一つの正解は無いのでしょうが、多くの登山者がただ「歩きにくい」という感想だけを持って素通りしてしまうところに、関心を持って想像力を働かすきっかけになったのなら、今回の飛び入り作業は、彼らの将来にとっても、自然と人との関係を考える上でも、大きな意味を持つことになるのではないでしょうか。

 普段、整備をしている私も、ただ作業をするだけではなく、その意味を伝える仕事にももっと力を入れていかなくてはと、若い力に良い刺激を受けることが出来ました。彼らにも今度の経験を周囲の人に伝え、関心の環をつなげていってもらえたら幸いです。

☆★☆手伝ってくれた学生の皆さん、どうもありがとう!!☆★☆

ページ先頭へ↑

ページ先頭へ