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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

憧れのカムイエクウチカウシ山

2022年11月17日
帯広自然保護官事務所 丸岡梨紗
こんにちは。帯広自然保護官事務のアクティブ・レンジャーの丸岡です。
そろそろ雪の降る季節がやってきますね。

今回はカムイエクウチカウシ山のことをご紹介したいと思います。

カムイエクウチカウシ山は、日高山脈の中でも特に好きな山は?と聞かれた場合、私にとって選択肢から外せない山です。
 
カムイエクウチカウシ山は日本200名山の中でも最難関と呼ばれている山ですが、滝の巻き道を越えてカールに辿り着き、カール壁を越えて山頂に登るといった日高の良さを凝縮したような山です。
また、カムイエクチカウシ山はアイヌ語名である「熊が崖に転げ落ちるほど急峻な山」という意味からもわかるように、切立った美しい山で、中札内村からもそのカールを抱いた美しい姿は眺めることができます。
 
アイヌ語解説
カムイエウクウチカウシ:kamuy-e-kut-ika-usi 
=(kamuy:神)(e:そこにおいて)(kut:岩陰)(ika:またぐ)(usi :所)
神(この場合山の神である熊を指す)が岩陰を踏み外して下へ落ちる所 
・和訳:熊が崖に転げ落ちるほど急峻な山

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ヒグマが転がり落ちるような急峻な壁
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中札内村からのカムイエクウチカウシ山の眺望
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沢登りから登るルート
また、カムイエクウチカウシ山=通称カムエクは、魚止の滝のすぐ近くまでオショロコマが生息し、お花畑が広がる八の沢カールには水や食料が豊富なために子育てをするヒグマや、岩がごろごろしている場所には涼しい環境を好む氷河期の依存種であるナキウサギも暮らしていたりと、豊かな自然環境を有する山です。また、日高山脈の固有種のナデシコ科の花であるカムイビランジはカムエクにちなんで名付けられました。
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上流部までオショロコマがいました
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カールは野生動物にとっても楽園です
今年の9月上旬の紅葉が始まった頃の時期に、カムイエクチカウシ山に登ったのですが、八の沢カールに到着すると、それまでの沢の音はピタリと止み、カールは静寂の美しい世界が広がっていました。ここから稜線に上がるとあたり一面雲海の中に切り立った急峻なカムエクがそびえていました。
日数も体力も要する山ですので、当日晴れるかドキドキでしたが、この幻想的な光景に出会うことができて感動もひとしおでした。
 
 
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八の沢源頭部
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雲海が広がる稜線(手前はピラミッド峰)
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カムイエクウチカウシ山から南西稜方面
日高山脈は、カムエクをはじめとして上級者向けの山が多いため、全般的に登山者が少なく、沢登りから登るような、日本古来の登山スタイルの山が多いことが良さでもあると思いますし、その原始性は日高特有の部分でもあると思います。

カムエクに入山される際の注意点なのですが、視界不良時には巻き道等で道を間違える可能性もあるため、GPSの持参をお勧めします。
そして、ロープの設置されているような滝の巻き道や沢では足場が不安定なために、慎重に行動する必要がありますし、天候によっては沢が増水して徒渉ができなくなりますので、ご自身のスキルに合わせて無理のない余裕をもった計画の作成をお願いいたします。
また、過去にはヒグマとの接触事故も起きていますので、熊にも注意が必要です。人と熊の共存を保つためにも、見通しの悪い場所ではこちらの存在を知らせるために熊鈴等で音を出し、匂いの強い食べ物の持参は避け、食料の管理の徹底もお願いいたします。
 
 
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滝の巻き道
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目印はありますが視界不良時は要注意
人間は大きな力をもつ自然の中では弱い存在で、本来自然とは畏れ敬うものでした。
正しく畏れて無理のない行動をし、自然に対する謙虚な気持ちをもって山に入ってこそ本当に登山を楽しめるのではないかと思いますし、カムエクはまさにそのような山だと感じています。
また、アイヌ民族の自然に感謝し祈りを捧げるような自然観、自然と共存するサスティナブル(持続可能)な生き方は、これからの時代に非常に大切になってくるものだと感じます。

そんなことを念頭におきながら、私も含めてですが、自然への感謝を持ち、無理なく自然を楽しんでいきたいですね。
テキスト
カムイエクウチカウシ山

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