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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

コシジロアジサシ 野生へ

2022年12月01日
東川 渡邉 あゆみ
こんにちは、東川管理官事務所の渡邉です。
早いもので12月に入りました。なかなか雪が降り積もらず気をもんでいましたが、今朝窓を開けたら一面雪景色!
待ちに待ったこの季節がやってきました~!冬好きのみなさん、短いウィンターシーズン、目一杯楽しみましょう♡

さて、今回は少し前のできごとですが、嬉しいニュースが届いたので、みなさんにお伝えしたいと思います。
9月某日、“鳥獣保護区管理員”※1のYさんが国指定鳥獣保護区※2の美瑛岳を巡視中に登山道上で動かなくなっている“コシジロアジサシ”の幼鳥を発見しました。
※1 鳥獣保護区管理員・・・鳥獣保護区内の密猟防止パトロール、利用者の指導、鳥獣の生息概況調査等を行う鳥獣に知見のある環境省から委嘱している管理員のこと。
※2 国指定鳥獣保護区・・・国が鳥獣の保護のため重要と認める区域
ケガをしていたり、弱っている野生動物を見つけても、一般の方が野生動物を保護することは法律で禁止されていますが、鳥獣保護区管理員は「傷病による保護を要する鳥獣の保護」が認められています。
コシジロアジサシは激しい衰弱ではなく、翼をバタバタするものの飛び立たない状態。強制給餌をしたら元気になりそう、とのことでYさんはコシジロアジサシを保護し、山の上から東川管理官事務所に連絡を入れてくださり、登山口でコシジロアジサシを引き渡してもらうことになりました。
 
世界には約1万種もの鳥が生息しており、日本国内では約600種が記録されています。
その中で私が同定できるのは大雪山でよく見られるほんの十数種・・・登山口でお迎えしたコシジロアジサシは初めて見聞きする鳥で、日本でも飛来数がとても少ない迷鳥※3でした。
※3 迷鳥・・・台風等で本来の渡りの道筋を外れてしまった渡り鳥。
 
一晩、事務所の玄関の段ボールの中で過ごしたコシジロアジサシ。群れから離れ、知らない場所に連れて来られてさぞ不安だったでしょう。
心配しながら翌朝段ボールを覗くと、キョロキョロと周囲を伺う様子が元気そうに見えたので、本来の生息地である水辺での放鳥を試みました。

しかし、翼はバタバタするものの飛び立てず、自ら歩いて川に入って、しばらく川辺に浮かんでから、陸に戻ってきてしまうを繰り返し、最終的に川岸にうずくまってしまいました・・・。

このままだと飛ぶことも、泳ぐことも、自力で餌を獲ることもできず、衰弱が進んでしまいます。
Yさんの仰る通り、強制給餌で体力を戻してもらった方が良いと判断し、苫小牧市ウトナイ湖野生鳥獣保護センター※4に収容し、リハビリに励んでもらうことにしました。
※4 ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・・・国指定鳥獣保護区における傷病鳥獣の収容、リハビリ等を行う施設

センターでは、獣医さんに経過を診てもらいながら強制給餌で体重を増やし、無事に体力を回復させました。その後、飛ぶ練習をして、徐々に飛翔距離が長くなったので、8日間のリハビリ生活の後、苫小牧市の水辺で放鳥をされ野生に帰っていったそうです。
収容したときは全く飛べなかったので、元気そうに飛んでいる動画を見て、とても感動しました。

コシジロアジサシはアラスカ沿岸やカムチャッカ等で繁殖期は過ごすそうですが、それ以外の季節はどこで過ごしているかわからない、まだまだ謎が多い鳥なのだそうです。
幼鳥なので、はじめての渡りの途中だったのでしょう。無事にエサは取れたかな?群れに合流できたかな?
渡り鳥は太陽や星座の位置を頼りに、体内に備わったコンパスで、渡る針路を決めていくそうです。
あんなに軽くて小さな身体で厳しい試練が待ち受ける自然界に還っていく野生の凜々しさ・清々しさに襟が正される思いがしました。
どうか無事に目的地に辿り着き、春を迎えられますように。

*今回、適切な判断でコシジロアジサシを保護してくださった鳥獣保護区管理員のYさん、同行者のIさん、ありがとうございました*

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