アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
洞爺湖中島でのエゾシカ捕獲に同行しました
2023年07月14日
洞爺湖
こんにちは。洞爺湖管理官事務所アクティブレンジャーの荻原沙理です。
今日は、環境省が業務委託している「エゾシカ捕獲」の現場に同行させていただいた際の様子をお伝えします。
※捕獲したエゾシカの写真は出てきません。
今日は、環境省が業務委託している「エゾシカ捕獲」の現場に同行させていただいた際の様子をお伝えします。
※捕獲したエゾシカの写真は出てきません。
エゾシカって?
エゾシカはニホンジカの亜種の一つで、亜種の中では最大級です。栄養状態等によっても変化しますが、オスの成獣で100~150㎏程度、メスの成獣で70~100㎏程度まで成長します。
(梶光一・宮木雅美・宇野裕之編著『エゾシカの保全と管理』2006年より)
※2022年に登別で撮影
アイヌ語では「ユク」と呼ばれ、カムイ(神)が人間に食料として与えてくれる身近な存在として考えられてきました。
食料としてのみならず、毛皮は防寒着になり、骨や角、足の腱などは漁具の材料としても活用されました。
(国立アイヌ民族博物館より)
アイヌと自然デジタル図鑑 (nam.go.jp)
そんなエゾシカですが、人の住む地域への出没によって、農作物への被害や交通事故が問題になっています。
エゾシカが道路を横断することにより、自動車やバイクなどの車両と直接接触したり、エゾシカを避けようと車両が道路をはみ出た結果、別の車両と衝突したりするなど、エゾシカに関連する交通事故のニュースが連日報道されています。
(北海道環境生活部自然環境局ホームページより)
エゾシカとの交通事故防止について - 環境生活部自然環境局 (hokkaido.lg.jp)
また、エゾシカが列車と接触、死亡し、それを目当てに集まってくるオジロワシやオオワシなどの猛禽類が、さらに列車と衝突する事故もあり、希少種の保護の観点からも問題になっています。
(梶光一・宮木雅美・宇野裕之編著『エゾシカの保全と管理』2006年より)
※2022年に登別で撮影
アイヌ語では「ユク」と呼ばれ、カムイ(神)が人間に食料として与えてくれる身近な存在として考えられてきました。
食料としてのみならず、毛皮は防寒着になり、骨や角、足の腱などは漁具の材料としても活用されました。
(国立アイヌ民族博物館より)
アイヌと自然デジタル図鑑 (nam.go.jp)
そんなエゾシカですが、人の住む地域への出没によって、農作物への被害や交通事故が問題になっています。
エゾシカが道路を横断することにより、自動車やバイクなどの車両と直接接触したり、エゾシカを避けようと車両が道路をはみ出た結果、別の車両と衝突したりするなど、エゾシカに関連する交通事故のニュースが連日報道されています。
(北海道環境生活部自然環境局ホームページより)
エゾシカとの交通事故防止について - 環境生活部自然環境局 (hokkaido.lg.jp)
また、エゾシカが列車と接触、死亡し、それを目当てに集まってくるオジロワシやオオワシなどの猛禽類が、さらに列車と衝突する事故もあり、希少種の保護の観点からも問題になっています。
洞爺湖中島とエゾシカの関係
中島ではどんなことが起きているのでしょうか。
中島は、洞爺湖に浮かぶ島々のことを指します。
中島にはもともとエゾシカは生息していませんでしたが、1950~60年代に人為的に持ち込まれた3頭が爆発的に繁殖・増加、以来自然生態系への多大な影響が懸念されてきました。
長年にわたって調査や捕獲が実施されていますが、最も多いときで約450頭以上、現在でも40頭以上のエゾシカが生息していると考えられています。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
中島にはエゾシカの天敵となる中・大型哺乳類が生息しておらず、狩猟も行われていません。
もともと存在していなかったエゾシカが、個体数が減少する要因がない閉鎖的な環境の中で高密度化※してしまったことで、様々な影響が出ています。
(※エゾシカの適正頭数は一定の広さの中に生息する頭数=密度で判断されます)
限られた植物をエゾシカが競い合うようにして食べると、植物の生育する速度がエゾシカの食べる速度に追い付かず、食べつくされて種が消滅してしまったり、地面がむき出しの裸地状態になってしまったり、エゾシカの好まない植物(不嗜好植物:ハンゴンソウ、フッキソウなど)や食べられても生育可能な植物(被食耐性種)や外来種(アメリカオニアザミなど)が生い茂ってしまう事態が起きています。
中島でのアメリカオニアザミ防除の様子はこちらをご覧ください。
洞爺湖中島のアメリカオニアザミ防除を行いました | 北海道地方環境事務所 | 環境省 (env.go.jp)
周辺の地域でよくみられるササ類、ススキ、大型のセリ科、ウコギ科、キク科などの植物は現在の中島では見られません。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
現在中島内で確認できる種は、エゾシカによる影響の小さかった1977年の植生調査で確認された種の3割弱程度で、変化の大きさが数字からもわかります。
(「支笏洞爺国立公園の公園計画の変更(一部変更)に係る基本方針」より)
また、食べられる植物が少なくなる/なくなると、木の皮(樹皮)を剥いで食べるため、樹木が枯れるなどの影響が出ています。
食料の不足は、エゾシカの体にも変化を与えます。
特に密度の高かった時期には、体格の小型化や、初産年齢の上昇、あるいは飢餓による大量死が報告されていました。
中島は、洞爺湖に浮かぶ島々のことを指します。
中島にはもともとエゾシカは生息していませんでしたが、1950~60年代に人為的に持ち込まれた3頭が爆発的に繁殖・増加、以来自然生態系への多大な影響が懸念されてきました。
長年にわたって調査や捕獲が実施されていますが、最も多いときで約450頭以上、現在でも40頭以上のエゾシカが生息していると考えられています。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
中島にはエゾシカの天敵となる中・大型哺乳類が生息しておらず、狩猟も行われていません。
もともと存在していなかったエゾシカが、個体数が減少する要因がない閉鎖的な環境の中で高密度化※してしまったことで、様々な影響が出ています。
(※エゾシカの適正頭数は一定の広さの中に生息する頭数=密度で判断されます)
限られた植物をエゾシカが競い合うようにして食べると、植物の生育する速度がエゾシカの食べる速度に追い付かず、食べつくされて種が消滅してしまったり、地面がむき出しの裸地状態になってしまったり、エゾシカの好まない植物(不嗜好植物:ハンゴンソウ、フッキソウなど)や食べられても生育可能な植物(被食耐性種)や外来種(アメリカオニアザミなど)が生い茂ってしまう事態が起きています。
中島でのアメリカオニアザミ防除の様子はこちらをご覧ください。
洞爺湖中島のアメリカオニアザミ防除を行いました | 北海道地方環境事務所 | 環境省 (env.go.jp)
周辺の地域でよくみられるササ類、ススキ、大型のセリ科、ウコギ科、キク科などの植物は現在の中島では見られません。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
現在中島内で確認できる種は、エゾシカによる影響の小さかった1977年の植生調査で確認された種の3割弱程度で、変化の大きさが数字からもわかります。
(「支笏洞爺国立公園の公園計画の変更(一部変更)に係る基本方針」より)
また、食べられる植物が少なくなる/なくなると、木の皮(樹皮)を剥いで食べるため、樹木が枯れるなどの影響が出ています。
食料の不足は、エゾシカの体にも変化を与えます。
特に密度の高かった時期には、体格の小型化や、初産年齢の上昇、あるいは飢餓による大量死が報告されていました。
中島で行われているエゾシカ対策
中島では、エゾシカによる植生への影響を防ごうと、いくつかの対策が行われています。
エゾシカの採食によって減少、消失してしまった植生を回復させることを目的に、防護柵が設置されています。
柵内では一度失われてしまった種が再び見られるようになったものも、わずかながらあります。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
※2020年撮影
※2021年撮影
エゾシカが樹皮を食べ、樹木が枯れてしまうことを防ぐため、保護ネットが木の幹に設置されています。
シカの口の届く範囲の草木がなくなってしまっている範囲のことをディアライン(deer line)と呼びますが、エゾシカの口の届く範囲にネットを設置し、ディアラインが形成されることを防いでいます。
エゾシカの採食によって減少、消失してしまった植生を回復させることを目的に、防護柵が設置されています。
柵内では一度失われてしまった種が再び見られるようになったものも、わずかながらあります。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
※2020年撮影
※2021年撮影
エゾシカが樹皮を食べ、樹木が枯れてしまうことを防ぐため、保護ネットが木の幹に設置されています。
シカの口の届く範囲の草木がなくなってしまっている範囲のことをディアライン(deer line)と呼びますが、エゾシカの口の届く範囲にネットを設置し、ディアラインが形成されることを防いでいます。
中島でのエゾシカ捕獲
これまで見てきたように、エゾシカの与える植生への影響は大きく、ピーク時よりも頭数が少なくなった今でも、エゾシカが移入する前の植生には遠く及ばないのが現状です。
中島では、「森林植生の再生」を目指し、エゾシカの捕獲を行っています。
(「令和2年洞爺湖中島エゾシカ管理計画」より)
中島には観光汽船が運航しており、夏の間(4月下旬~11月上旬)は一般の方も入島できます。
そのため、捕獲作業を安全に実施するため、一般の方が島にいない時間帯(早朝3時ごろ~始発便8時半までと最終便16時半から日没まで)に行われます。
冬の間は観光汽船が中島に寄港しないため、日出から日没の時間まで、捕獲作業が行われます。
エゾシカの捕獲手法には、いくつかあり、有効性や捕獲効率はその時の周囲の状況や天候・気象条件によって変化します。
環境省の委託事業として中島で実施されている捕獲手法は大きく分けて5つです。
7月の捕獲では、ストーキング捕獲、くくりわな捕獲、待ち伏せ捕獲を実施しました。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
今回私は、エゾシカの残滓(ざんし:解体したエゾシカの体など)を搬出する現場に同行させていただきました。
写真に写っている赤いソリと青いバケツに今回捕獲されたエゾシカの残滓がまとめられ、和船で中島の外に搬出しました。
今回捕獲されたエゾシカの多くは1歳程度の若くて警戒心の薄い個体だったそうです。
捕獲を実施した時期の最高気温は25℃程度で、数日間経っているものはかなり腐敗が進んでいる状態でした。
(今でもあの場で嗅いだにおいが鼻についています。)
人為的に持ち込まれたエゾシカが、中島の植生を変えてしまっている現状に対応する必要があることは十分理解していても、いざ捕獲されたエゾシカを目の前にすると、「人間の都合でこれだけ多くの命が翻弄されている」という事実を考えずにはいられませんでした。
中島に持ち込まれることがなければ、捕獲されることもなかったエゾシカたち。
人間の行動が引き起こした結果の重さを脳裏に刻む必要があると感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
中島では、「森林植生の再生」を目指し、エゾシカの捕獲を行っています。
(「令和2年洞爺湖中島エゾシカ管理計画」より)
中島には観光汽船が運航しており、夏の間(4月下旬~11月上旬)は一般の方も入島できます。
そのため、捕獲作業を安全に実施するため、一般の方が島にいない時間帯(早朝3時ごろ~始発便8時半までと最終便16時半から日没まで)に行われます。
冬の間は観光汽船が中島に寄港しないため、日出から日没の時間まで、捕獲作業が行われます。
エゾシカの捕獲手法には、いくつかあり、有効性や捕獲効率はその時の周囲の状況や天候・気象条件によって変化します。
環境省の委託事業として中島で実施されている捕獲手法は大きく分けて5つです。
- 湖上捕獲…船の上から待ち伏せし、湖岸沿いのエサに引き付けられたエゾシカを狙撃
- ストーキング捕獲…島内を徒歩で探し、狙撃
- くくりわな捕獲…エゾシカがよく通ると思われる「シカ道」に、歩くと足が固定される仕掛けを設置
- 待ち伏せ捕獲…エゾシカの出没が予想される地点で待ち伏せし、狙撃
- 囲いわな捕獲…エサで囲いの中に誘い込み、遠隔操作で入り口を閉鎖することで捕獲
7月の捕獲では、ストーキング捕獲、くくりわな捕獲、待ち伏せ捕獲を実施しました。
(「令和4年度洞爺湖中島エゾシカ管理推進業務 報告書」より)
今回私は、エゾシカの残滓(ざんし:解体したエゾシカの体など)を搬出する現場に同行させていただきました。
写真に写っている赤いソリと青いバケツに今回捕獲されたエゾシカの残滓がまとめられ、和船で中島の外に搬出しました。
今回捕獲されたエゾシカの多くは1歳程度の若くて警戒心の薄い個体だったそうです。
捕獲を実施した時期の最高気温は25℃程度で、数日間経っているものはかなり腐敗が進んでいる状態でした。
(今でもあの場で嗅いだにおいが鼻についています。)
人為的に持ち込まれたエゾシカが、中島の植生を変えてしまっている現状に対応する必要があることは十分理解していても、いざ捕獲されたエゾシカを目の前にすると、「人間の都合でこれだけ多くの命が翻弄されている」という事実を考えずにはいられませんでした。
中島に持ち込まれることがなければ、捕獲されることもなかったエゾシカたち。
人間の行動が引き起こした結果の重さを脳裏に刻む必要があると感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。