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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

歴史を偲ぶ 豊似湖から観音岳

2022年09月12日
帯広自然保護官事務所 丸岡梨紗
こんにちは。帯広ROのアクティブ・レンジャーの丸岡です。
少し前の話にはなりますが、豊似湖から観音岳登山道調査をしました。

観音岳(932m)は日高山脈の主稜線からは外れますが、日高山脈南部の豊似岳の東にある山です。豊似湖からのルートですと、豊似湖南岸から猿留山道沿いに歩いた後、尾根にでて登ります。
夏場は木が茂ってしまい見づらいのですが、豊似湖は上から見るとハート型の形をした日高山脈唯一の自然湖です。
 
猿留山道から分岐する地点が、見通しの良い沼見峠なのですが、そこにはかつての旅の安全を祈念するために妙見菩薩(安政6年/1859年)と馬頭観世音菩薩碑(文久元年/1861年)が祀られています。

また、観音岳の中腹、標高690mの所に奥山半僧坊大権現の像が在ります。奥山半僧坊大権現とは、南北朝時代に方廣寺(静岡県)を開山した無文元選禅師が中国各地を巡拝して帰国する際、海上で難破の危機に遭遇し、半僧坊の力によって海難を免れたという故事に因んで厄除け、商売繁盛などの御利益がある神とされています。また、観世音菩薩が半僧坊大権現に化身してこの世に現れたとも言われています。
以前の庶野~広尾間は陸海路とも通行の難所であったため、当時の人々が通行の安全や水難除けを祈って沙留山道や黄金道路沖を容易に見渡すことが出来るこの位置に像を祀ったのでしょう。

これらのことから観音岳の山名がついたのでしょうね。
 
しかし昔は、観音岳は、豊似湖畔にそびえる山であったことから、アイヌ語では「トヨイヌプリ=トヨイ岳」といわれており、現・豊似岳は「ホンノホリ」と呼ばれていたと言われていました。
 

アイヌ語解説  


トヨイ (to-y-o-i、to-yun-i) = 沼 (ある) ところ 、 沼の 口の ところ
(to:沼)(y:挿入音)(o:ある)(i:ところ)、 (to:沼)(yun:口) (i:ところ)
※トヨイは豊似湖一帯の地名で、トヨイヌプリはトヨイの山ということで、豊似湖の湖畔に聳える山と言うことであろう。また、アイヌ語は母音の重出を嫌うのでoの前にyが添加されてトヨイとなり、それが訛ってトヨニになったと推測される。


観音岳は昔は地元のアイヌの方に恐れられていた山だったようで、登ると突風が吹くと言われていたようです。
また、以前豊似湖は、昔の摩周湖と同じ名前であるカムイトウ(神湖)とよばれていました。
1845年に松浦武史郎は、カムイトウから「トヨイヌプリ」(現・観音岳)の登頂を試みましたが、山霊の祟りを恐れて 土地のアイヌが案内を拒んだため、山霊のお告げがあったと嘘をついて案内させてその後に登頂しています。
 
 
観世音菩薩に挨拶したからでしょうか。私が登ったときは、嵐が起こることなくいいお天気で良かったです。
 
途中までは地元の方々が笹苅をしてくださっていますが、コンタ830mへのやや急な斜面は笹が濃く背が高い所が多くなっているのと、コンタ830mと690m分岐は視界がない時には要注意です。
 
 
山頂からは豊似岳がよく見えました。まだ縦走路に雪がありましたが、縦走してみても面白そうですね。
 
南日高の山々もよく見えました。

松浦武四郎が歩いたこの山を歴史を偲んで歩くのも趣があってよかったです。
笹こぎや急斜面があるため、経験者向けではありますが、往復5時間も見れば歩けると思うので、歩いてみてはいかがでしょうか。

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