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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

第4回 シカのワナって知ってる?

2012年02月08日
羅臼
この日記でご報告している、「地域住民による地域住民を対象とした講座」。
 過去の講座はコチラから
 ・第1回目
 http://hokkaido.env.go.jp/blog/2011/09/801.html
 ・第2回目
 http://hokkaido.env.go.jp/blog/2011/10/813.html
 ・第3回目
 http://hokkaido.env.go.jp/blog/2011/11/820.html


今回は、この講座最終回となる、
「シカのワナって知ってる? ~見てみよう!作ってみよう!~」
をご報告します。

エゾシカが増えすぎてしまっている…という話は、よく耳にするところでしょう。
エゾシカの個体数増加は、産業や自然環境にさまざまな影響を与えています。
ここ知床のエゾシカも、さまざまな問題を引き起こし、それらは深刻な状況にあります。

今回の講座では、そんなエゾシカの個体数を管理する手法のひとつ、囲いワナをとおして、エゾシカ増加の原因、引き起こされる問題、個体数管理の取り組みについて、などを学びます。
しかし、今回のテーマはあまり明るい話でもないし、“個体数管理”なんて、ちょっと難しい内容…。
そこで、羅臼町でモノづくりを行っている稲葉可奈氏を講師にお迎えし、
ワナのミニチュア制作をとおして、楽しく学んじゃおう!という講座に。
稲葉氏は、知床をもっとおもしろく、をテーマに、「知床のてぬぐい」をはじめ、日々、知床に関わるイラストを描いたりモノづくりを行っています。


まずは、室内でのレクチャー。
実際に羅臼でエゾシカ対策を行う、知床財団職員の石名坂氏から
お話を聞きます。
昆布干し場や牧草地を荒らすなど漁業・酪農被害、交通事故、花壇荒らし防止の網に絡まる問題、希少な高山植物を食べて減少させてしまったり、逆にエゾシカが好まない植物が増えすぎてしまったり、樹皮を剥されてしまった樹木が枯れるなど、自然環境への被害…。
知床でのエゾシカ増加は、知床の植物の構成を変えてしまうくらい
とても深刻な問題となっています。
そこで、今回学ぶ囲いワナなど、個体数管理の対策が行われていることで、
増加は抑えられてはいるものの、今後も継続して個体数の減少に取り組んでいかなければならないこと、などを聞きました。



続いては、ワナ見学。
寒風吹きすさぶ中、バッチリ防寒してルサフィールドハウスより上流に設置されている囲いワナの見学に向かいます。
冬はエゾシカにとってほとんど食べ物がない上に、頼みのササも積雪で埋まってしまいます。そんなとき、栄養たっぷりな牧草があったら…。
ワナの中には、エゾシカを呼ぶ美味しそうな牧草が置かれています。
シカの気分になってワナの中へ。
すると、中に設置されていたカメラが映すモニターを建物内で見ていた作業員によって遠隔操作で扉が下ろされる、という仕組みを知ります。
その後エゾシカは作業員によって仕切り部屋へと追われ、一頭ずつ捕獲され、食品加工されるため隣町の養鹿場へと運ばれていく、という説明を聞きながら仕切り部屋に入ってみたり…。
ワナの仕組みだけでなく、エゾシカの目線も同時に体感しました。


冷えた手先を十分に温めたあとは、メインのミニチュア制作です。
あらかじめ稲葉氏によって下準備された制作物に、色塗りを行います。



なごやかな制作時間はあっという間に終わりに近づき、組み立てられたエゾシカミニチュア囲いワナは完成を迎えます。そこには、参加者思い思いのエゾシカが、囲いワナを取り囲んでいました。
そして、「高山植物も食べる」「庭のお花が食べられちゃいます」「交通事故に注意!車も人もあぶない」などなど、今回のレクチャーで知ったことや、
町内ならではエゾシカエピソードなど、町民目線のコメントも入れてもらい、
ステキなミニチュア囲いワナが完成しました!



こうしてできた囲いワナのミニチュアは、今回の講座の開催場所でもある、
ルサフィールドハウスの展示物になります。

普段なかなか機会のないモノづくりをとおして、これもまた普段あまり見る機会のない囲いワナの体験は、みなさん楽しんでいただけたようです。

山間部が住宅街のすぐ裏から成る羅臼町内では、市街地に出没するエゾシカが増え、町民との間にさまざまなトラブルを招いています。
“エゾシカ=やっかいもの”というイメージが定着、
生活上、あまりに身近になりすぎているエゾシカ、
でも、だからこそ上手に付き合っていく方法を考えていかなければいけないこと、そしてそのための取り組みが行われていることを、今回の講座やミニチュア囲いワナ展示をとおして、少しでも知ってもらうきっかけになれたら…と思います。

(写真:知床財団提供)