ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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知床国立公園 ウトロ

220件の記事があります。

2015年07月06日世界自然遺産・知床ディケイド

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

 「7.17」......この数字が何を指し示すかお分かりでしょうか。そうです!知床が世界自然遺産に登録されてから、今年の7月17日で丁度10周年なのです!おめでとう知床!ありがとう知床!知床国立公園・ウトロの高橋です。おめでとうございます!!!

 そんなわけで世界遺産登録10周年を記念して、式典と講演会が先日7月4日に開催されました。

 記念式典には官民問わず、大勢の方がご出席くださいました。知床の世界遺産登録を目指して尽力された方々、遺産登録後の知床の行く末を担ってきた方々、あるいは世界遺産になるずっと以前から、この知床に関わってきた方々――総勢約600名が斜里町ゆめホールに集い、馬場 隆 斜里町長による歓迎のことばで、式典が開会されました。

馬場 隆 斜里町長と望月 義男 環境大臣左: 馬場 隆 斜里町長 / 右: 望月 義夫 環境大臣

 環境省からは望月 義夫 環境大臣が出席し、当日知床を視察した所感も交えながら、「本日の「つどい」をきっかけとして、10年度、50年度に、より魅力ある知床の姿が見られるよう期待する」と挨拶を述べました。

 つづく記念講演会では、元・北海道日本ハムファイターズ選手、現在は同球団のスポーツコミュニティオフィサーとしてご活躍の稲葉 篤紀さんをゲストにお招きしてご講演いただきました。

 稲葉さんは、この日の午前中に知床五湖を散策した際、実際にヒグマを目撃したとのこと。さらに町を走る「ヒグマえさやり禁止キャンペーン」のステッカーを貼った自動車もご覧になったそうで、「こんな(ちっぽけな)餌ひとつのために、(奪われる必要のない)ヒグマの命が奪われてしまうのは悲しい」「クマに餌をやったら覚えてしまって、最後には駆除しないといけなくなる。道外の人達に伝えていけたら」と話されました。

最後は湊屋 稔 羅臼町長によるお礼のことばで閉会となりました最後は湊屋 稔 羅臼町長によるお礼のことばで閉会となりました

 湊屋羅臼町長は「これは台本に無いんですけども......」と前置くと、ここでまさかのサプライズ。馬場斜里町長と二人で手を取り合って「羅臼町・斜里町、二町で力を合わせて、将来の世代のために頑張っていきましょう!」と会場に呼びかけ、拍手喝采、大団円の内に閉会となりました。

稲葉さんと共に、知床の未来へ向けたメッセージを朗読する羅臼・斜里両町の子供たち

稲葉さんと共に、知床の未来へ向けたメッセージを朗読する羅臼・斜里両町の子供たち

 知床の一つの節目ともいうべきこの日、この場所に居合わせることができたことは、なんとも感慨深いものがあります。私、高橋がアクティブレンジャーとしてここ知床国立公園・ウトロに着任して、3年と少々。世界遺産登録10周年、国立公園指定50周年に比べればほんの短い期間ではありますが、知床の魅力に触れた者の一人として、護り、伝えていかねばと襟を正した一日でした。(もちろん、楽しむことも忘れずに!)

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2015年05月25日近くて遠い、でも近い。

知床国立公園 ウトロ 笠井 憲子

 知床国立公園は斜里町ウトロ地区と羅臼町の両町によって構成されておりますが、実は冬の間は両町をつなぐ、知床横断道路は雪のため閉鎖されており遠回りを余儀なくされ、 近くて遠い場所となっておりました。

 それが5月22日から夜間通行止めが解除され、終日通行可となりました。時間を気にすること無く斜里町と羅臼町を行き来することができるようになり、距離的にも時間的にも近い場所になります。地元の方々にとっても観光客の皆様にとってもうれしいことです。

 今年の終日通行可の開始は、昨年と比べて22日早く、例年に比べても早い終日通行可の開始となります。

 少し前の話になりますが、5月1日に知床横断道路が冬季閉鎖から日中のみ開通になりました。そのとき、知床横断道路の開通にあわせて『知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン』を関係機関と共におこないました。

 開通を待つ車両へのチラシやシールの配布と、通行する車両に対しての横断幕での啓発活動です。

 横断幕を持つ前田Rと永瀬R。くまごろうには高橋ARが入っています。

 知床にお越しの際はヒグマだけで無く、野生動物にはえさをあげないようお願いいたします。

 知床ヒグマえさやり禁止キャンペーンHP

 http://dc.shiretoko-whc.com/esakin/

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2015年04月07日なごり雪 / オルカ

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

 連日春らしい暖かい日が続いて雪解けが進み、海沿いはすっかりなごり雪といった風情の知床国立公園・ウトロの高橋です。

 お昼休みに事務所の電話が鳴りました。転任前の挨拶回りで外出していた松永レンジャーからでした。

 

 「シャチ(※)おるんやけど!!!」(※学名: Orcinus Orca)

 

 知床半島の周辺の海には、様々な海棲哺乳類がすんでいます。アザラシ、トド、イルカにクジラ、そしてシャチ。こうした動物らを船から観察するウォッチングツアーが盛んにおこなわれています。が、これは主に半島の東側、羅臼の海の話。ウトロの海では夏にイルカが、冬にアザラシが時折見られはするものの、クジラやシャチといった大型の動物にはなかなかお目にかかれません。ましてやシャチは、アイヌ語で「レプンカムイ」=「沖の神」と呼ばれるように、基本的には沿岸ではなく沖合に暮らしているため、今回のように陸上から肉眼で見られる機会は、いよいよ珍しいのです。

 

シャチがいたという弁財湾

シャチがいたという弁財湾

 

 シャチの発見現場・弁財湾へ向かうと、既にちょっとした人だかりができていました。「いたいた!」「あっち!」という声のする方に目をやると

 

黒い背びれ海から突き出た黒いものが

 

シャチ出たあああああ!!!!!

 

 親子でしょうか? 2頭が、連れだって泳いでいく姿が見えます。そこから離れたところにさらにもう1頭。しばらく海面付近を悠々と泳いだのち潜り、姿が見えなくなりました......うーん、実にデカい!シャチの体長はメスで7m前後、オスの大きな個体は10mにも達するといいます。周りが海なので比較対象になるものが少なく、写真で上手くお伝えできないのがなんとも残念です。

 

 「また出た!あっちだーッ!」

 

 先ほど潜った地点からは大分離れて、再び現れました。皆さん続々車に乗り込み、シャチが次に現れるであろう付近へ先回りをする姿に、竜巻を追うストームチェイサーめいた本気を感じます。そろそろ昼休み時間が終わるので我々は撤収しましたが、とことん追いかけた方の話では、浮きつ沈みつしながら陸沿いに南へ、つまり知床半島基部方向へ泳いでいったとのこと。彼らは果たしてどこへ向かったのか......。

 

 

 

 ちなみにシャチの目撃地点付近にはアザラシもいましたが、皆さんシャチに夢中で、哀しいかなアザラシへのリアクションは薄かったです。

 

海に浮かぶアザラシの頭(いつものチヤホヤが無く、当惑するアザラシ)

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2015年03月13日BLIZZARD / 私を町外に連れてって

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

 週末の度にやってくる暴風雪、通行止め、そして――孤立。知床国立公園・陸の孤島ウトロの高橋です。

 

 先月2月はじめ、知床半島東側にある羅臼町が数日間にわたる暴風雪で孤立し、全国ニュースで取り上げられました。疲弊した町民の皆さんや、災害派遣された自衛隊員による除雪作業の様子は、記憶に新しいことと思います。この暴風雪では、羅臼町ほどではないにしろウトロにも大雪が降り、例によって道路は通行止め、町が孤立しました。

 

雪に埋まった車両を掘り出す 横殴りの吹雪の中、車を掘り出して帰宅する永瀬レンジャー
(この後、途中で道が無くなったため、車を乗り捨てラッセルして帰ったとのこと)

 

 東北出身の私は、ここ知床ウトロに暮らすまで「北海道は台風も梅雨も無いからいいよなー」などと思っていましたが、浅はかな考えでした。穏やかな夏の代価を取り立てるが如く、冬に壮絶な暴風雪がやってきます。最低3回はきます。慈悲は無い。

 

 実際、2月15~16日、27日、3月2日と立て続けに3度の暴風雪が北海道東部を襲い、ウトロの観測史上最高となる積雪200cmを記録。いずれの暴風雪でも、やはり町が孤立しました。

 

 「町が孤立する」これは結構な危機的状況のはずなんですが......私の周りだけでしょうか、住民の皆さんは意外と普段通りだったりします。先述の通り、ウトロは毎冬すくなくとも3回は暴風雪により孤立するため、幸か不幸か「孤立慣れ」していると言いますか......あまり悲壮感がありません。「週末に斜里町の大きなスーパーへ買い出しにでかけ、一週間分の生活物資を買いこんでくる」というような買い物スタイルのご家庭が多いせいか、普段からの備蓄がなされていることが、心理的余裕に繋がっているのかもしれません。

 

暴風雪時の道東の通行止め状況

暴風雪時の道東地域の通行止め状況。実際はウトロだけでなく、大体どこも孤立します。
(画像: 北海道地区道路情報 / 国土交通省北海道開発局 ※2013年2月の暴風雪時のもの)

 

 またウトロは漁業や農業も盛んな町。夏にとった魚や野菜を貯蔵してある、なんてお宅も多く、食べ物の心配がないのも大きいと思います。(ちなみに私の場合は、食生活が近所のコンビニに全面依存しているため、道路閉鎖で流通が止まると死活問題です)

 

 そして何よりも、「数日で必ず除雪が完了して、道路が開く」という事実と、それにもとづく「どんな雪でも2、3日我慢すればいいだけ」という全幅の信頼、楽観こそが、孤立時の一番の心の支えになっている気がします。巨大な除雪車を駆って、日夜道路を除雪してくださっている関係者の方々には、本当に感謝することしきりです。

 

雪原にたたずむエゾシカと羅臼岳

台風一過の晴天の下、朦朧とたたずむエゾシカと、雪化粧に磨きがかかった羅臼岳

 

 そんな3月10日現在、この記事を書いている今もまた、巨大な二つ玉低気圧が近づいてきています。さて、今回は果たして......。

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2015年02月23日冬の知床

知床国立公園 笠井 憲子

知床は冬の観光シーズンまっただ中。

流氷が訪れ、ウトロ地区では流氷ウォークや知床五湖エコツアー、オーロラファンタジーなど冬の知床を楽しめるプログラムがあります。

特に、知床国立公園内でおこなわれている『厳冬期の知床五湖エコツアー』は、適正利用・エコツーリズム検討会議で承認された今年からのプログラム。

認定された引率指導者(ガイド)のツアーに参加することで、冬期通行止めとなっている道路を通り、知床五湖まで車で立ち入ることが可能となりました。

雪の原生林の中をスノーシューウォークしながら五つの湖を巡るツアーでは、夏とは全く雰囲気の違った知床五湖を楽しむことができます。

雪原に見えますが、これは氷結した湖。湖の上を歩く体験は、冬ならでは。

後ろには硫黄山がうっすら。雲が無ければ知床連山がくっきり見えます。

流氷も見られますよ。

この日は流氷が少し沖に離れてしまっています。

知床で冬を楽しんでみませんか?

詳しいことは

http://blog.shiretoko.asia/2015/01/blog-post.html

知床斜里町観光協会まで。

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2015年01月26日アイスがドリフトしている

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

遅ればせながら明けましておめでとうございます。知床国立公園・ウトロの高橋です。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

例年よりもすこし早い1月19日。冬の知床に、今年もTHE DAYがおとずれました......皆さんお待ちかね!イエス、流氷(英名: drift ice)です!!!

 

流氷に埋まるオホーツク海

画像左の巨岩(オロンコ岩)付近がウトロ港。右は流氷に埋まるオホーツク海

 

数日前に、知床半島の付け根・斜里町以久科の海岸で流氷が見られたというニュースがあり、「そろそろウトロのほうまで来ないかな」と思いつつ巡視に出かけたところ、既にウトロまで流れ着いていました。

 

断崖の上から、凍結したフレペの滝と流氷を望む

断崖上から流氷を望む。画像右の青い氷は凍結したフレペの滝

 

「流氷が海を覆うと寒くなる」と言われます。今でも十分寒いですが、これに輪をかけてとはいかなることか。流氷によって海にフタがされると、まるで陸地に変わったような状態になります。海面から蒸発する水蒸気が減って雲が発生しにくくなるため、晴れる日が増えます。晴天が続くと暖かくなる、かと思いきや、地表の熱をさえぎる雲がないため、放射冷却でむしろいよいよ寒くなる、というわけです。ようこそ......厳冬期へ。

 

そんな酷寒の気配を察知したのか、巡視に向かったフレペの滝遊歩道では、エゾシカの群れが身を寄せ合い、力を合わせて雪を掘り、一致団結して草を食んでいました。

 

エゾシカの群れ(雄4頭、雌38頭)

♂が4頭、♀が38頭、という大所帯

 

エゾシカはそのヒヅメという足回りの宿命か、積雪が多いところでは埋もれて動けなくなってしまいます。これは「歩くのが大変」といったレベルではなく、文字通り「移動が不可能」になるため、そのまま餓死・凍死します。今なにかと話題のバックカントリースキー/スノーボード等でもそうですが、大量のパウダースノーの中で転ぶと、もがけども起き上がれず雪で溺れそうになることがあります(ありました)。それはエゾシカにとっても同じなんですね。なので、積雪の多い山からこういった海沿いの雪の少ない風衝草原に移動し、吹きさらしに耐えつつ、僅かな草木を食べて春を待っています。

 

角を突き合わせて力比べをするエゾシカのオス2頭

僅かな草木から得たカロリーを相撲で消費する♂2頭と、見取稽古をする若い♂1頭

 

今でこそ人間は安定して冬を越せますが、かつてはエゾシカ達同様、相当命がけだったんだろうなあ......とシカを見ていてしみじみ思います。というわけで、流氷を楽しみに知床へいらっしゃる際は寒いので、人類の英知の結晶・暖かい服を着込んできてください!

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2014年11月27日ヤマと雪の養生

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

まだ積雪こそありませんが、朝晩は随分と冷え込むようになりました。地球温暖化防止のため、灯油ストーブは使わない主義の知床国立公園・ウトロの高橋(足指の感覚が無い)です。

11月10日に知床峠(知床横断道路)が冬期閉鎖され、これまで車で30分だった峠の向こうの羅臼町へは、ぐるりと半島基部を迂回して3時間かかるようになりました。近くて遠いとは正にこのこと......そして今月末11月30日には、岩尾別地区も同様に閉鎖されます。
「岩尾別に入れなくなるその前に」ということで、岩尾別登山口から羅臼岳へ向かいました。



今期最後の山仕事は、今年一年、登山者の皆さんのプライバシーを守ってくれた携帯トイレブースの後片付けと冬期養生です。ブースが設置されている銀冷水付近では積雪が数cmほど。日陰は地面や岩がツルツルに凍りついていて、転びそうになります。



便器を取り外したり、風雪吹き込み防止の板を取り付けたり......キンキンに冷えた金属に触れていると、手袋をしているとはいえ徐々に指の感覚が無くなり、地味に時間がかかります。諸々の作業を終え、来春再び、お互い無事で相見えんことを願って、そっと扉を閉じました。

日に日に寒さが増し、いよいよ長い冬が始まります。昔何かの本で読んだ、「自然は春・夏・秋と季節の恵みを与えてくれるが、冬は何も与えてはくれない。ただ圧倒的に美しい」という一文を思い出します。



流氷が海を覆い、空を舞うオオワシ・オジロワシが影を落とす――確かに美しい。しかし今思えば、冬が美しいだけというのは嘘ですね。具体的には......そんな迫力の景色の中でする、スキー!温泉!!エゾシカ猟!!!これですよ!!!!!

美しいだけではない、ゴキゲンな知床の冬が、もうそこまで迫っています。

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2014年11月13日海からの贈り物(約7m)

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太



これが何なのかお分かりでしょうか。知床国立公園・ウトロの高橋です(画像の物体が高橋だという意味ではありません)。

さかのぼること2週間前、知床世界遺産センターを訪れた観光客の方から「ウトロへ来る途中、バスの中から見えたんだけど、あれは何?」という問い合わせがあり、現地へ確認に向かいました。沿岸道路の約4m程下方、ゴロタ浜の波打ち際に打ち上げられていたのが、これです。

対応に当たってくださった知床財団の方曰く、「体長は約7m、ハクジラの仲間だと思うが......」とのこと。車が入れない場所なので動かすのは容易でないが、幸い人が来るような場所ではないので、ひとまず様子を見ましょう、ということで解散になりました。


(ムゥゥ......これはデカい......実にデカいぞッ!!!!!)

個人的に、男性は子供から大人まで年齢問わず、「大きなもの」(怪獣・恐竜、巨大ロボット、大型の車・バイクetc...)に惹かれる傾向があるように思います。

そんなわけでもはや仕事とプライベートの垣根無く、近くを通りがかった際には車を停め、経過を観察していました。「どんどん鳥や狐に食べられて骨になっていくに違いない」と想像していましたが、予想に反して一週間経ってもほぼ丸のまま残っています。せいぜい時折カモメが腹に乗ってつつくぐらいです。

聞けば、死骸とはいえこれだけ皮膚が分厚いと、食い破れる動物は限られてしまうのだそうです。カモメやカラスのクチバシでは、比較的柔らかい目の周りぐらいしか食べることができません。もっと大型で鋭いクチバシや爪・牙をもった動物、すなわちオオワシ・オジロワシやヒグマといった動物が先んじて開封してくれないと、小さな動物達は餌を目の前にしていながらありつけないのです。これはもどかしい!実際に皮膚を触ってみましたが、表面はドゥルドゥルのゲル状物質に覆われているものの、その下は固くガチガチで、弾力性の無いゴムのような感触です。納得です。

さてそんなこんなで先週の土曜、またそばを通ったので覗いてみると......いずれこうなるだろうと覚悟していましたが、遂にその日が来てしまいました。クジラは再びオホーツクの荒波に乗って旅立っていった後でした。ありがとうございました。

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知床の浜辺には時折、こういった海生哺乳類の亡骸が流れ着くことがあります。初見は衝撃的でしたが、だんだん「ワシやヒグマが海からの贈り物のラッピングを解いてくれる、その瞬間を楽しみに待つ鳥や狐たち」そんな光景に見えてきて、何かの死が何かの生を支えているのだと、しみじみ感じています。

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2014年11月11日知床国立公園、五十にして天命を知るシンポジウム開催

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

先日、ついに町の中にも雪が降りました。いまだタイヤ交換をしておらず焦りを覚える知床国立公園・ウトロの高橋です。

今年で知床は国立公園に指定されて50周年を迎えます。これを記念して知床の未来を考えるシンポジウムが、去る11月1日、知床自然センターにて、環境省釧路自然環境事務所・斜里町・羅臼町・公益財団法人知床財団の4者の共催で開かれました。

知床の豊かな自然を守りつつ、いまだ一部の人にしか知られていない数々の魅力を引き出し、今後の発展の可能性をさぐる、充実の一日となりました。



開会にあたる基調講演では、北海道テレビのニュース番組・イチオシ!の「ミキオジャーナル」でおなじみ、写真家・ビデオジャーナリストの阿部幹雄さんに、「南極で考えた知床のこと」と題して、お話しいただきました。

南極観測隊に参加された際に体験した、氷と風だけの過酷な世界。内陸部では微生物ですら存在できない南極大陸であっても、沿岸ではペンギンやクジラ、アザラシ等、豊富な海の恵みによって生命が育まれている。阿部さんはそんな光景に、知床との共通点――サケ・マスや流氷が海から運んでくる栄養によって、ヒグマをはじめとした陸の動植物が生かされている――を重ね見たそうです。

また、知床財団事務局次長・寺山元さんからは、「知床の魅力と可能性」と題して、知床のバックカントリー(=人による管理がされていない山域)の素晴らしさと、その将来的な利用の可能性について語っていただきました。

世界各国を巡った経験を持つ寺山さんが考える、ヒマラヤやパタゴニアといった世界に名だたるエリアと比較した際に見えてくる、知床ならではの良さとは――それは「狭い地域に要素が密集していること=アクセスの良さ」であるとして、里・山・海へ、知床の多彩な表情を10日間歩いて体験する「知床グレートトラバース」構想(仮)を提案されています(個人的に非常に胸躍るものがあります)。

そして個性豊かなパネリストの皆さんによるシンポジウム本編。

「知床・羅臼の海に生きてきた漁師の暮らしと歴史、人に焦点を当てたガイド企画」
「本場イギリスのフットパス(自然歩道)に学ぶ、知床のトレイルづくりの可能性」
「希少海鳥ケイマフリや、狩りをするオジロワシなど、よりディープな海のウォッチングツアー」
等々、視点が変わればこれほど様々な「知床」があるのだなあ、と感じ入ることしきりでした。


(上)羅臼町の市場見学や地元産魚介類の調理を交えた婚活イベント企画(後藤菜生子さん / 株式会社 知床らうすリンクル)
(左下)イギリス・コッツウォルズ特別自然美観地域を巡るフットパスの紹介(秋葉圭太さん / 公益財団法人 知床財団)
(右下)知床半島ウトロ側の断崖に営巣する希少鳥類ケイマフリ(松永暁道自然保護官 / 環境省)

そうそう、忘れてはならないのが、ある意味今回最も注目され、垂涎の的(文字通り)であったお昼ご飯です!!!


(上)エゾシカ肉やマイカ等々、地元食材を使ったフレンチビュッフェ(の一部)
(下)フリーズドライ食品「極食」シリーズより「猿払産ほたてのさしみ」他

釧路「イオマンテ」のシェフ・舟崎一馬さんによる「地元食材を使ったフレンチビュッフェ」と、基調講演をされた阿部幹雄さんが開発に携わり、北海道産の食材(知床産の鮭やホッケが!)を使った、南極観測隊や宇宙ステーションでも食べられている絶品フリーズドライ食品「極食」の試食販売コーナー、いずれも言わずもがなの大盛況だったようです。

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2014年09月05日コンパスヨシ!地形図ヨシ! ゼロ災でいこう!!! ヨシ!!!

知床国立公園 ウトロ 高橋 優太

窓を開けっぱなしで寝ていて、朝方5時頃、寒さで目が覚める……秋を意識せざるを得ない知床国立公園・ウトロの高橋です。ですが個人的にはまだまだ夏です!登ってますか皆さん!!登ってますか夏山!!!

今夏、知床では山岳遭難が3件発生しています。そのうち2件は道迷い、1件は滑落による死亡事故という、例年に比して事故の多い年になりました。また、いずれの事案も硫黄山周辺で起きているのが特徴です。硫黄山上部は、枯れ沢やガレ場など道無き道を進む部分も多く、ガスや悪天で視界が開けないと非常にルートを見失いやすい場所です。

さてそんな中、8月の知床連山巡視を実施しました。今回は件の硫黄山登山口から入山し、1日目は第一火口野営指定地、2日目は二ツ池野営指定地に宿泊しての二泊三日行程です。


第一火口上部から、南岳・オッカバケ岳を望む

行程1日目、硫黄山直下の分岐を過ぎ、第一火口野営指定地へ向かって歩き出したその時です。どこからともなく「オーイ」と引き止める大声が聞こえてきました。声の出処は……硫黄山の山頂でした。「カムイワッカはどっちに降りマスカー!」どうやら外国人の方らしく、英語と日本語が入り混じります。我々も拙い英語を交えつつ説明するものの、山頂にいる彼らとの間には縦方向に50~60m程離れているため、叫んで説明したところで埒が明きません。


硫黄山山頂から呼び声が聞こえる

もう直接行って話そう、と登っていこうとしたところ、向こうも同じくしびれを切らしたのか、山頂から降り始めまし……ってそっち登山道じゃないですよ!その下思いっきりガケですよ!「硫黄山でまたも遭難、滑落事故(今期4件目)」という大見出しが紙面に躍る光景が脳裏に浮かび、慌てて正規の登山道の方へ走り、誘導しました。

「Oh, sorry.」「ゴメンナサーイ」と言いながら降りてくる彼ら3人は、聞くとベルギーからやってきたとのこと。硫黄山の山頂へ登ったはいいが、登山道を見失い、どこから降りるのか分からなくなった様子。地図はガイドブックに載っているものしか持っていないという話だったので、予備に持っていた地形図を渡し、登山口があるカムイワッカへの経路と所要時間、下山後のシャトルバスはこの時期走っていない旨等々、下山についての情報を伝えると、足早に下山していきました。


硫黄山直下を足早に降りていくベルギー人登山者3名

一人の方は左手に包帯を巻いており、本当に大丈夫なのか尋ねると「指がBroken.」と笑顔で、心身ともに余裕があるようでしたが……9月はまだまだ夏山シーズンとはいえ、気温は大分低くなり、寒さは体力を奪います。知床での山登りを予定している方は、山と高原地図だけではなく必ずコンパスと地形図を、それから万が一のビバークに対応できるよう予備の食料やツェルトを携行し、安全に登山をお楽しみください。

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